第73回げんさいカフェを開催しました

「災害情報の活用で地震の被害は減らせるか?」

ゲスト:災害情報学者 倉田 和己さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任准教授)

日時:2017年6月7日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 電話という情報技術がこの世に登場してから、それを世界の1億人が使うようになるまで75年かかったそうです。
 それがインターネットの場合は7年で世界の1億人に広まり、さらにFacebookは4年、instagramはわずか2年で、1億人のユーザーを獲得したと言われます。極めつけは、社会問題にもなったPokemon Go(ポケモン・ゴー)で、これが世界の1億人に広がるまでたったの1か月しかかかりませんでした。新しい情報技術が登場すると、それがあっという間に広がっていく時代に私たちは生きているんですね。

 災害情報の世界も例外ではありません。次々と新しい情報技術が登場し、普及していく中で、私たちはどのようにそれを受け止め、活用すればいいのか、今回のカフェではこの分野の専門家の倉田さん一緒に考えることにしました。
 まず防災減災にもっとも役立ちそうな技術が「備えるための可視化」。倉田さんは、愛知県碧南市が作った「防災3次元マップ」を紹介してくれました。標高や地形がよくわかる立体地図(3次元地図)に、南海トラフ巨大地震で予想される震度分布、津波の浸水予測、液状化危険度の計算結果などを、次々と重ね合わせていくと、自分の住んでいる地域が、具体的に何にどう備えなければいけないか、実感をもってリアルにわかります。

 また、「いざという時の情報共有」にも力を発揮します。いま倉田さんたちが開発中のスマホアプリは、GPSの位置情報サービスと連動させることで、登録済みの人が被災地のどこにいるか瞬時に災害対策本部でわかるというシステムです。そしてスマホを持つみんながそれぞれの場所から現場の写真や音声メモを送ることで、各地の被害の状況を、リアルタイムに共有することができます。災害直後には、電話がつながらなかったり現場に行くのが難しかったりして、自治体が被災状況を的確につかめないといったことが起きがちですが、このスマホアプリが普及すれば、被災状況にあわせた、より的確な災害対応ができるようになるかもしれません。

 このアプリは「備えるための可視化」にも応用できます。実際、防災訓練の時に、みんなでスマホをもって“町歩き”をし、災害危険箇所を見つけてリポートしあったり、避難経路を確認したりしているそうです。そのデータはその後の図上訓練にも、地域防災マップ作りにもそのまま使うことができるということでした。
 名古屋大学減災連携研究センターでは、研究者たちが、熊本地震の現地調査にこのアプリを持っていき、情報共有に役立てたのだそうです。

 名古屋大学と名古屋都市センターが開発した「ISM(イズム)」は、自分のいる場所がかつてどんな場所だったかがわかる「今昔まっぷ」を使いやすくしたもの。愛知県西部の海抜ゼロメートル地帯はかつて海だったとか、名古屋東部丘陵地の小中学校はかつての池を埋め立てて造ったところが多いことが実感をもってわかります。これらの土地では当然地盤が悪いので、液状化もおきやすいと知った上で備えなければなりませんね。

 さて問題は、こうした情報技術を私たち市民がどう活用していくかです。
 そのためにはまず技術の限界を意識しなければなりません。例えば、災害時には、ふだん24時間当たり前に使える電源や通信ネットワークが使えないかもしれないのです。そうした想定をあらかじめしておかないと、どんな技術も宝の持ち腐れになるおそれがあります。
 また伝えられる情報の信頼性にも限界があります。たとえば「防災3次元マップ」が描く情報のうち、その場所の「標高」や「地形」は実測データですが、「震度予測」や「津波浸水予測」「液状化危険度」はあくまでシミュレーション計算結果の一例にすぎません。
 情報をすべて鵜呑みにするのではなく、その限界をよくわきまえたうえで、賢く自分たちの備えに取り入れることが大切だと、倉田さんは強調します。
 でも表示される映像が“リアル”で“わかりやすく”なればなるほど、ついつい受け取る側はそれが「ほんとうにそれが起きるんだ」と思いがちなんですよね。なかなか難しい問題です。このような情報の受け取り方をめぐって、今回も会場の皆さんとの対話が大いに盛り上がりました。

 実は、このようにわかりやすく、使いやすい災害情報可視化技術の開発に取り組む研究者が、いまの大学や研究機関には少ないのだそうです。倉田さんのような若い研究者がもっともっと活躍してほしいものです。倉田さん、参加者のみなさん、どうもありがとうございました。

参考URL:まちづくり情報システムISM【イズム】
http://nui-mdc.jp/?page_id=10

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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