第62回げんさいカフェを開催しました

「熊本地震から3か月でわかってきたこと」

ゲスト:活断層学者 鈴木 康弘さん
(名古屋大学減災連携研究センター教授)

日時:2016年7月13日(水)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館 減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 今回のカフェは、目からウロコの驚きの連続でした。
 まずはカフェ冒頭に示されたスライドの写真。鈴木さんが熊本県南阿蘇村の地震断層付近で撮影したものですが、なんと、何台も車が横倒しになっているのです。この付近では計5台の車が横倒しになっていたそうで、いずれも同じ方向に倒れていました。東日本大震災で、津波に流され横倒しになっている車の写真をたくさん見ていたため、私たちもつい慣れっこになっていましたが、考えてみれば津波が起きていない熊本地震で、つまり地震の揺れだけで、これらの車は横倒しになったのです。大変貴重な写真であり、21年前の阪神・淡路大震災の時にも見ることがなかった光景でした。
 4月16日未明のM7.3の地震(本震)で、南阿蘇村の震度は6強でした。でも明らかに車が横倒しになったこの地震断層近傍では、震度7の揺れになっていたはずです。震度計がある村役場はそこから4Kmも離れているとのことでした。活断層の真上やごく近くでは、この強い揺れと、断層がずれる力(せん断力)、さらにそれらによる地盤の変形、すべてがあわさって大きな地震被害をもたらすことが改めてわかりました。

 もうひとつびっくりしたのは、これまでの調査で、4月14日のM6.5の地震(前震)と16日の本震は、同じ断層系が起こしていたことがはっきりしてきたことです。地震直後の報道では、前震は日奈久断層帯の断層が、本震はそれと隣り合った布田川断層帯の断層帯が起こしたとされていました。しかしよく調べてみると、前震と本震を起こした地震断層は連続したひとつの断層系で、前震でその一部(西側)が割れ、その後本震でその東側が割れたと考えられるということです。
 実は2002年の活断層の学問的評価では、 布田川〜日奈久断層帯としてひとつながりの断層 とされていたのが、その後の詳しい調査の結果、最新の2013年の評価では二つの隣接した断層帯に分類されていたのでした。長い活断層系の一部が地震を起こした際、その延長線上の残りの断層系がその後どうなっていくのか、(地震が起きるのか、起きないのか)学問的には未解明の点も多いということです。これは今後も起こりうることで、さらに研究が進むことが期待されます。

 さて、地震後に被災地に調査に入った鈴木さんは地元の住民から「近くに布田川断層があることは知っていたけれど、どう備えるかということは考えていなかった」という声を聞いたそうです。阪神・淡路大震災のときに多くの神戸市民が「関西で大きな地震が起きるとは思っていなかった」という反応だったことに比べると、鈴木さんは「活断層の存在と名前を地元の人が知っているというのは、わずかながら進歩」と話します。ただ「市民や行政がどう備えればいいかというところまで提言できていなかったことは反省」と言っていました。

 今回も会場のみなさんとの対話が盛り上がりました。
 専門の研究者から「まだここがよくわかっていない」という話が聞けることがサイエンス・カフェの利点のひとつです。大きな会場の市民講演会では、専門家は「ここまでわかった」という話ばかりしがちです。それが期待されているからです。でも研究というものは新しい事実が判明するとその分、新たに謎が生まれてくるというのが実情、それが学問の進歩を支えているのです。これまでの科学でどこまでが解明されていて、最先端の研究者たちは、いまどんな謎の解明に挑み何に悩んでいるのか知ることができるのが、質問ーこたえ、質問ーこたえの繰り返しが可能なサイエンス・カフェ形式(対話型コミュニケーション)の特徴でもあるのです。

 参加者のみなさん。鈴木さん。ありがとうございました。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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