「東日本大震災の津波調査から見えてきたもの」
自然地理学者 松多 信尚 さん
名古屋大学減災連携研究センター特任研究員
企画・ファシリテータ:隈本邦彦
(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
共催で実施しています。
今回のゲストは自然地理学の専門家、松多信尚さんです。松多さんによると、地理学というのは、それぞれの土地の違いを調べてその違いに着目して物事を考える学問だそうです。東日本大震災の津波被害にその地理学を応用するとどうなるか。げんさいカフェで考えてみました。
最初に松多さんが示したグラフは、2004年スマトラ沖地震のインドネシアの被害と2011年東日本大震災の被害を、集落ごとに比較したもの。共同研究者である名古屋大学高橋誠さんの研究成果です。それによるとインドネシアでは、インドネシアでは、建物の流出被害と人々の死亡率がほぼ一致しているのに対し、日本では、建物被害が大きくても人的被害が少ない集落が多く「多くの人が逃げて、助かっている」実態がみえてきます。事前の防災知識や津波警報によって人々が逃げることで、災害を小さくできることがはっきりとデータで示されました。
ただ、さらに詳しくデータを分析すると、同じ市町村でも被害の大きさに地域差があることがわかります。宮城県の山元町、東松島市、南三陸町の調査結果によると、海が直接見える地域では人的被害が少ないのに対して、海が直接見えない(少し内陸側の集落)では人的被害が多くなってしまったところがあるのだそうです。“想定外”の津波だったことが逃げ遅れにつながったのかも知れません。やはり地震直後に津波襲来をしっかり想起できるかどうかが生死の分かれ目になっていると考えることもできそうです。
カフェでは、大震災の直後、地理学の研究者有志が名古屋大学に集まって、膨大な数の航空写真の解析をし、どこまで津波が遡上したのか2万5千分の1地図に赤鉛筆で書き込んでいったというエピソードが紹介されました。まだ津波被害の全体像がよくわかっていなかったその時期に津波浸水マップは大いに役立ちました。減災連携研究センターでも、当時立ち上げていた「大震災情報集約拠点(MeDIC)」でその成果を紹介させてもらったのを覚えています。
さて震災から3年、航空写真解析のデータや現地調査のデータを総合して津波がどこまで遡上したのかが詳しく分かってきています。松多さんは、各地域の津波の高さの記録を、明治、昭和の三陸大津波やチリ地震津波の記録と比較することで、東日本大震災の津波を引き起こした断層を推定しようという最新の研究についてもお話してくださいました。これらの知識を、今後の南海トラフ巨大地震の防災対策にどう生かすかが大きな課題ですね。
会場からは、海岸線の形と津波の高さの関係についての質問や、川をさかのぼることで津波が高くなるのかなどの質問が出て、今回もおおいに盛り上がりました。松多さん、ありがとうございました。
日時:2014年2月7日(金)18:00〜19:30
名古屋大学カフェフロンテ(環境総合館斜め前、本屋フロンテの2階。ダイニングフォレスト向かい)
げんさいカフェのファシリテータについて
げんさいカフェのファシリテータは、NHK時代に科学報道に長く関わられた、サイエンスコミュニケーションの専門家である隈本邦彦氏(江戸川大学教授/減災連携研究センター客員教授)にお願いしております。毎回のカフェのゲストである各分野の専門家から、市民目線で科学的知見を聞き出し、分かり易い言葉で参加者に伝える事で、従来にない防災教育・啓発の実践が可能になります。