第128回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

「今の暮らしを続けようとすることが防災なのだ」子育て世代の防災を考える
(減災館第32回特別企画展「パパママ防災展」との連携企画)

ゲスト:子連れ防災研究者 蛭川 理紗 さん
   (名古屋大学減災連携研究センターエネルギー防災寄附研究部門特任助教)
日時:2022年7月22日(金)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 地域での防災減災活動はどうしてもシニア世代より上が中心になりがち、一方で子供たちの防災教育も少しずつ充実してきています。その結果、その2つの世代の間、つまり若者から子育て世代、働き盛り世代あたりまでが、空白というか十分カバーできていないのではないかと以前から指摘されています。確かに、その世代のみなさんは、防災に関心がないわけではないけれども、仕事や子育てで忙しくてイベント等への参加が難しいということもあると思います。
 そこで、今回のカフェでは、自らも7歳の子どもを育てながら、防災研究者として働きはじめた若手研究者の蛭川理紗さんに「子育て世代に防災のことを考えてもらうためにどうすればいいか」というテーマのカフェのゲストになっていただきました。

 げんさいカフェの副題とした「今の暮らしをつづけようとすることが防災なのだ」が、蛭川さんの実感なのだそうです。
 防災について、何か新たな知識を勉強しましょうとなると「難しい」とか「面倒くさい」というイメージを持たれがちです。そうではなくて、「災害後もいまと同じ暮らしを続けていく方法を考えてみてください」と提案します。蛭川さんは、それを子育て世代の皆さんに考えてもらうツールとして「防災曼荼羅チャート」を紹介してくれました。
 「防災曼荼羅チャート」では、3×3の9マスの真ん中に「いままで通りに暮らす」という目標を書き、その周囲の8つのマスに、その目標達成のために必要なことを書いていきます。大リーグで活躍中の大谷翔平選手が子どものころやっていたという話が有名ですね。
 実際に、愛知県内の子育てサークルの皆さんにやっていただいたそうです。

 曼荼羅の真ん中の「今の暮らしを続ける」に必要な8つのことを、まわりに書いてもらうと「食べる」とか「寝る」とか「人とつながる」というキーワードが出てきます。それをさらに外側にある曼荼羅の真ん中に書き写して、さらにそのまわりの8つのマスを埋めていくということをやって必要なことを具体的に考えるのだそうです。
 例えば「食べる」の周りのマスには、食材、食器、お金など、必要なものがリストアップされます。災害後もいまと同じ暮らしを維持するには、普段からそうしたいろんなことを考えておかなければということがわかって、具体的な備えのイメージが湧いてくるわけです。
 防災曼荼羅チャートづくりはお子さんにもできます。蛭川さんは、実際に5歳のちかちゃんにやってもらったそうです。すると、どうしても必要なものの5箇所に「みみこ」が登場してきました。「みみこ」というのは、ちかちゃんお気に入りのうさぎのぬいぐるみで、これは絶対に災害時には必要ということがわかりますね。「みみこ」は必ず非常持ち出し袋に入れて逃げるということが決まったそうです。

 蛭川さんによると、このように、子どもを交えた防災学習の基本は、「楽しさ」なのだそうです。防災に関して、脅したり怖がらせたりするというのは、子供たちには逆効果で、地震は怖いという話を強調しすぎると子どもたちは離れていきます。それよりも楽しければどんどん参加してくれて、どんどん学んでくれるというのだそうです。
 そのひとつが、現在開発中の「みんなをまもるかるた」です。
 例えば、「ゆ」の取り札には、だんごむしのかわいいイラストが描かれていて、読み札のほうには「ゆれたらすぐにだんごむし」。その裏に、親御さん向けの解説で「だんごむしはびっくりすると丸まって自分の身を守るよ。みんなも地震がきたらダンゴムシポーズで身を守ろう」と書かれています。
かわいい動物のイラストが主役なので、まだ字が読めない保育園児でも参加できるかるたです。
 地震の時にブロック塀から離れよう、というのはなかなかいいアイデアがなかったそうで、いろいろ考えたあげく、クマのイラストで、「へいのちかくであそばない、くまいっとうぶんはなれよう」になったそうです。
 そして、災害時には和式トイレを使うこともありますが、今のこどもたちは、和式のトイレに馴染みがないということで、ゴリラがうんちをしているイラストに「すわる、しゃがむ、ごりらはどうやってうんちする?」というのもありました。

 こうして子どもたちを積極的に巻き込む理由について、蛭川さんは、子供たちに楽しみながら防災のキーワードを覚えてもらうことが目的とおっしゃっています。小さい子は、ゆれたらすぐにだんごむしとかすぐに覚えてしまうでしょう。それを、幼稚園保育園でこんなこと習ったよと保護者に話すことの波及効果が大きいと考えているということでした。
 確かに親は子供から指摘されるとハッとしますよね。蛭川さん自身もお子さんから指摘されて気がつくこともあるとおっしゃっていました。それが自然に子育て世代の人たちに伝わっていくということが期待されています。


 
 蛭川さんによると、子どもたち自身は、こうして覚えたこと全部理解しているわけではないのですが、少し上の学年になって、ああこういうことだったのか、と覚えていたことの意味に気づくというのが理想だとおっしゃっていました。
 そしていま、あたらしい絵本づくりにも取り組んでいるそうです。
 それもふつうの絵本ではなく、妖怪が登場する絵本です。以前流行した「ウォーリーを探せ」のように、大きなA3版の街のイラストの中のたくさんの人間に混じって、防災上危険なところには妖怪がいるというしかけです。地震で落ちそうな橋には妖怪「ココダメヨン」が、津波に襲われそうな場所には妖怪「ザブンマン」が、何かが倒れてきそうな場所には妖怪「バターン」が潜んでいます。その妖怪を子どもたちが見つけ出すという絵本です。
 これで繰り返し遊んでいるうちに、子どもたちは自然に、地震が起きた時にどういう場所にいれば安心かということを学んでいくということで、安全な高台にはちゃっかり猫が寝てます。この猫もさがしてもらって、そういう場所を覚えてもらおうという狙いです。
 現在、実際にこどもたちにやってもらって反応を集め、それを反映させて改良するという作業の途中だそうです。さすが防災研究者のつくる絵本ですね。
 名古屋大学減災館では、蛭川さんらが企画された「パパママ防災展」を9月末までやっています。
 今回も会場とオンライン合わせて130人余りの方にご参加いただきました。蛭川さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

 

 

→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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