第103回げんさいカフェを開催しました

過去、いま、未来の南海トラフ地震、理学でどこまで言えるか?

ゲスト:地震学者 山中 佳子 さん
   (名古屋大学大学院環境学研究科 附属地震火山研究センター准教授)

日時:2019年12月4日(水)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 次の南海トラフ巨大地震は、いつ、どれくらいの規模でやってくるのか? 
 残念ながら、いまの科学ではそれを予測することはできません。でも一方で、政府の地震調査委員会は今後30年以内に80%の確率で起きるという予測を出しているわけで、我々はこの情報どう受け止めればいいのか、少し戸惑ってしまいます。今回のカフェでは、そのへんのところを地震学者の山中さんに詳しく伺うことにしました。

 南海トラフの巨大地震の予測が難しい理由の一つは、日本で近代的な地震観測が行われるようになってから、たった1度しか起きていないからです。昭和の東南海地震と南海地震だけですね。
 そこで山中さんたち地震学者は、同じ海溝沿いのプレート境界でも、明治以降、何度か大地震を起こしてきた東北地方の沖合(日本海溝沿い)の地震について、その性質をしっかり分析し、それをモデルにして「次に起きる南海トラフ地震」を考えようとしているのだそうです。

 そういう考え方で、8年前の東日本大震災を起こした地震を分析してみると、巨大な津波と広範囲の強い揺れを起こしていることから、北緯40度より南にあったアスペリティ(プレート境界のうち普段は固着していて地震の時に大きく滑って強い揺れを出す場所)がすべて同時に滑った上、海溝沿いでは明治三陸大津波を起こしたアスペリティもすべったと考えられるということです。
 日本海溝沿いでは、岩手県沖、宮城県沖、福島県沖にあるアスペリティが一般的には周期的にすべっていますが、多数存在するアスペリティがどういう組み合わせで滑るかによって地震の規模も変わってくるという考え方が必要だそうです。

 それならば、南海トラフの地震の場合もまず、アスペリティの位置を確かめることが大切です。
 1944年の昭和の東南海地震の主なアスペリティは、観測された地震波形などから、志摩半島から渥美半島、静岡県西部にかけての陸地と海の直下にあると推定されているということです。このアスペリティは東北地方沖のアスペリティに比べて、大きさが大きく、陸地に近いのが特徴で、いざ地震の時には強い揺れが襲ってきそうです。

 また最近、海底の地殻変動の観測が進歩してきた結果、南海トラフ沿いの静岡県沖から高知県沖にかけて、大小5~6個のアスペリティが存在していることもわかってきたということです。将来起きる南海トラフ巨大地震は、これらのアスペリティのうちのいくつかが連動して起きることになるのでしょうが、それを科学的に正確に予測するのは難しそうです。

 山中さんが強調したのは、次の南海トラフ巨大地震が、いつどのように起きるかはわからないが、いつかは必ず起きるし、その時には過去の地震の被害は参考になるが、当時では起きなかったような新たな被害も起きる、ということです。
 いま私たちの周りには、宝永や安政の頃にはなかった巨大構造物や超高層ビルがたくさん建っており、これらは長周期の地震動で大きな被害が出る可能性があります。またかつてはあまり人が住んでいなかった海抜ゼロメートル地帯にたくさんの家が建っている現状では、地震の揺れによる河川堤防の決壊や津波によって、たくさんの人命が失われる恐れがあります。

 とにかく、いつ地震が起きても生き残れるよう、住宅の耐震化や減災街づくりなどを進め、備えを強化しておかなければならないということを改めて思い知ったカフェでした。
 山中さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。



→ポスター(PDF)

※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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