第97回げんさいカフェを開催しました

話題のAI(人工知能)ビッグデータは減災に役立つか?

ゲスト:災害情報学者 倉田 和己さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任准教授)

日時:2019年6月21日(金)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 情報科学の分野に詳しい今回のゲスト倉田さんによると、いま流行りのAI=人工知能と呼ばれているもののほとんどは、“AI的なコンピュータ”のレベルなのだということです。
やっていることが、どんなに人間の脳がやっていることに似ていても、実際には、その“AI的なコンピュータ”たちは、本当に物を考えているのではなく、似たような過去の実例の中でもっとも統計的に確率の高いものを当てはめているだけだからだそうです。

 試しに、カフェの参加者の皆さんと一緒に、最も身近なAI的存在であるスマホのSiriに向かって、「おいしいラーメン屋教えて?」と訊いた時と、「まずいラーメン屋教えて?」と訊いた時の回答を比べてみました。なんとその答えはほぼ同じ店のリストだったのです。順位までそっくりです。
 さらに「ラーメン屋以外の店を教えて?」と聞いても、やはり回答はほぼ同じ店のリスト。つまりSiriは、質問の意味がほんとうにわかっているのではなく、「ラーメン屋」という言葉が使われる状況で、統計的に最も正解である確率が高い答えを導き出しているに過ぎなかったのです。そもそも「まずい」とか「以外」という単語を用いる過去の事例があまりに少ないため、とんちんかんな答えが出てきてしまうのです。
 つまり今のAI的なコンピュータは、人間よりたくさん記憶ができて、早く演算ができる機械にすぎないので、計算方法や、学習データ(ビッグデータ)もすべて人間が与えてあげなければならない点で、まだ人間を超えているとは言えないわけです。

 ではそのようなAI(正確にはAI的なコンピュータ)が、将来、防災・減災に役立つようになるのでしょうか?
 これに関しては、いまいろいろな試みが行われているそうで、例えば、気象衛星や気象レーダーなどの公的データに加えて、付近の空気中の水蒸気量や、ワイパーを動かしている車の数などの情報を元に、より高いレベルでピンポイントの降水予想をするというようなAIがアメリカで誕生していることです。
 一方で、地震災害などの時に、SNSから個人が発する情報を集めて被災状況を総合的に判断するようなAIについては、情報の信頼性や、あいまいな情報をどう判定するかなどの課題が多く、まだまだ実運用での検証が必要だとか。

 最後に倉田さんから、ご自身がいま研究中の、ビッグデータを活用したAI的なもの(笑)を紹介していいただきました。
 それは携帯電話会社が推定リアルタイムの人口分布データを、災害対策の改善に生かそうというというもの。携帯電話会社は、各基地局とつながっている契約者の数(契約時の住所、年齢、性別もわかっている)を常時把握しています。携帯電話会社は、その情報を匿名化して販売しているので、そうしたデータを活用すれば、夜間、早朝、昼間、通勤時間帯などに、「どんな」人が「どこ」に「どれだけ」いるのかがわかるのだそうです。都会では携帯基地局の数は1キロ四方に数個もあるので、細かいデータが把握可能なのだそうです。
 例えば愛知県飛島村のように、住民登録している人が少ない地域でも、昼間は工場で働いている人がたくさんいて、夜間も工場内に数百人以上の人が残っていることなどがこのデータからわかります。
 また年齢別のデータを使うと、ベッドタウンとなっている郊外では、昼間若い人が都心に働きに行っているため、昼の時間帯に災害が発生すると、実際に活動できる消防団員などの若い人がとても少ないと予想され、データでもそれが確かめられたそうです。
 考えてみれば、国や自治体が行っているいまの地震被害想定や防災対策は、国勢調査をベースに立案されており、発生時間帯もせいぜい3種類くらいしか想定していません。ということは、これからこのようなビッグデータを活用すると、より実情に合った、きめの細かい災害対策をたてることができそうです。

 会場からは「将来、AIが地震予知をするということは可能になるのか」という質問が出ていましたが、何度も起きたことでないと正確に予測ができないのがいまのAIの特徴なので、「結局のところ、南海トラフ地震が何度か起きてからしか予知には役立たないのでは」という悲観的なお話になりました。
 倉田さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

This entry was posted in お知らせ, げんさいカフェ. Bookmark the permalink. Both comments and trackbacks are currently closed.