第27回げんさいカフェを開催しました

「防災教育から命の学習へ」

防災学習の専門家 近藤 ひろ子さん
名古屋大学減災連携研究センター防災アドバイザー

企画・ファシリテータ:隈本邦彦
  (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との
共催で実施しています。



 今回のテーマは、子供たちにどうやって正しい防災の知識を持ってもらうかという問題です。
 愛知県内の小学校の教師として、長年この問題に取り組んで来られた近藤さんとの対話で考えました。近藤さんは現在、減災連携研究センターの防災アドバイザーを務めるかたわら、JICAからの依頼で、タイやブラジルなどの海外の防災教育のアドバイスもしていらっしゃいます。

 さて、近藤さんはまず、防災「教育」と防災「学習」の違いを教えてくれました。「教育」とは知識を教え込むことですが、「学習」には子供たち自身が気づいて自ら学ぶことという意味があるそうです。教員はその手伝いをする立場。防災教育というと何か専門的な知識を教えることのように考えがちですが、命の大切さとそれをどう守るかの学習だと考えれば、すべての教員が取り組めるはずと近藤さんはおっしゃっています。

 各科目で教えるべきことが書かれている小中学校の学習指導要領には、地震や火山、防災対策のことが理科や社会科で一部触れられているものの、その量はわずかで、それだけでは子供たちに自分や周りの人たちの命を守るための十分な知識を身につけてもらうのは無理です。
 そこで近藤さんの小学校では、1年生の生活科の「がっこうたんけん」を「がっこうのなかの、あぶないところさがし」にしたり、2年生の生活科「まちのたんけん」や3年生の社会科「まちの絵地図づくり」を、地域の人たちと一緒に町を回って防災マップを作る活動にするといった工夫をして、自然に楽しく防災知識が身につくような仕掛けを作っていたということです。こうした成果を「『命の学習』発表会」として全校児童・保護者・地域向けに発表したり、子どもたち自ら働きかけて町全体で催すイベントで発表したりしました。それらの体験が子どもたちのやりがいや喜びにつながって行ったそうです。

 この他にも近藤さんは、家庭科の裁縫の課題を防災頭巾作りにするとか、市町村ごとに作る社会科の地域学習の副読本に過去に起きた災害の歴史を入れてもらうなどさまざまな工夫をすることで、学習指導要領に沿ったかたちで無理なく「命の学習」としての防災学習が可能になると提案していました。
 防災教育のための時間がなかなか取れないとか、どう教えていいのかわからないといった悩みを持っている先生たちにとっては、とても役立つ情報ですね。

 近藤さんの小学校では、毎年4月の学年はじめに、学級費で長期保存が可能な缶入りのお菓子とペットボトルの水を非常食として人数分購入し、1年間学校で保管、学年の終わりの3月にそれぞれの家庭に持ち帰り、家庭用非常食として使ってもらうようにしていたそうです。こうすることで、いざという時に学校に留まる子供たちの水と食料が確保しておけるだけでなく、年に2回必ず防災のことが家庭の話題にのぼるというメリットもあるそうです。

 会場の参加者の皆さんからは、市町村や地域と、学校との連携を具体的にどう進めて行くかや、小学生の子供がいない人たちとはどうつながって行けるかなど、たくさんの質問や意見が出ていました。中には防災のことが学べる新しい理科の実験案を提案してくださる参加者もいて、今回もたいへん対話が盛り上がりました。

 近藤さん、ありがとうございました。

日時:2013年8月8日(木)18:00〜19:30
名古屋大学カフェフロンテ(環境総合館斜め前、本屋フロンテの2階。ダイニングフォレスト向かい)

げんさいカフェのファシリテータについて


げんさいカフェのファシリテータは、NHK時代に科学報道に長く関わられた、サイエンスコミュニケーションの専門家である隈本邦彦氏(江戸川大学教授/減災連携研究センター客員教授)にお願いしております。毎回のカフェのゲストである各分野の専門家から、市民目線で科学的知見を聞き出し、分かり易い言葉で参加者に伝える事で、従来にない防災教育・啓発の実践が可能になります。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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