「指定避難所以外の避難者への支援を考える」
ゲスト:地域防災学者 荒木 裕子 さん
(名古屋大学減災連携研究センター特任准教授)
日時:2018年4月6日(金)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
今回のカフェのゲストは、災害時の避難者支援マネジメントの専門家、荒木さんです。今年から新しく減災連携研究センターのメンバーに加わりました。
阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でも、たくさんの被災者が避難所生活を送りましたが、荒木さんによると、自治体があらかじめ決めていた「指定避難所」ではなく、指定されていなかった「それ以外の避難所」で避難生活を送った人がかなりいたのだそうです。それぞれの震災の時、神戸市と仙台市では、避難所の4~5割が指定避難所以外の避難所だったというデータを示してくれました。
そうなってしまう理由としては、指定避難所だけでは大量の避難者を収容しきれないという“大きさ”の問題と、指定避難所が遠すぎたり、その人の特性に合わないなど“場所“の問題があるそうです。
そうした指定避難所以外の避難所に対しては、「そこに避難してもいいのかな?」という住民の素朴な疑問があり、また自治体職員の間は「指定避難所以外に支援物資を送ってもいいのか」という思いもあります。
荒木さんによれば、法律上の答えは、どちらも「よい」なのだそうです。
災害対策基本法は、自治体に対して指定避難所を整備しなさいと決めていると同時に、それ以外の避難所にも必要な支援をしなさいと定めています。災害救助法では支援にかかった費用も国が持つ仕組みになっているのです。
しかしその情報は十分国民には知られていませんね。残念なことに自治体の職員の中にも知らない人がいるそうです。こうした理解の低さは、指定避難所以外の避難所に支援の手が届きにくくなる原因になり得ます。
ちょうど2年前に起きた熊本地震の時にも、指定避難所以外の避難所の支援マネジメントが問題になりました。
最も被害が大きかった益城町の場合、ピーク時には約1万6000人の避難者が出ましたが、あらかじめ指定されていた16か所の避難所の想定避難人数は6200人にすぎず、しかもそのうち6か所の避難所は実際には使えなかったため、とてもとても足りませんでした。
また、自分の田んぼや畑からなるべく近いところに居たいという避難者のニーズや、自家用車内で避難した人が多かったなどの理由もあって、結果的に指定避難所以外の集会所や民間施設が避難所としてかなり使われ、多くの人が避難生活を送ったそうです。
問題だったのは、そのことを地元益城町役場が把握して、確実に支援を提供するという体制をとることが遅れたことです。小さな自治体では、被災直後に、少ない職員で大量の避難者対応を行わなければならず、ほかにもたくさんの業務があるため、指定避難所以外の「どこに」「何人が」避難しているのかという肝心な情報を、うまく把握することができませんでした。
荒木さんたちの調査によると、被災から10日後に、ようやく町役場に避難者対策プロジェクトチームができ、避難者情報の集約ができる体制が整いました。そしてその頃から、自衛隊や医療支援チーム等が持っていた指定避難所以外の避難者の情報などをもとに、現地の調査を行うようになり、ようやく全体像がわかってきたということです。避難所によっては、指定避難所に物資や情報を取りに行っているところや、自分たちでボランティア団体の支援を呼び込んでいるところもありました。一方で指定避難所以外の避難者の状況は役場組織内で十分に共有されず、現場の職員には公民館で避難が行われていることが理解されないといったことも起きていました。
荒木さんは、これらの調査結果や、過去の震災の経験から得られた教訓として、
①大災害時には指定避難所以外への避難者が大量に出ることをあらかじめ想定しておくこと。
②すべての自治体職員が、指定避難所以外の避難所にも、支援の手を差し伸べることが必要だという認識を持っておくこと。
③被災直後の忙しさの中で、避難者情報があっても、それを集めてマネジメントする人が役場にいないという「空白状態」が生まれないよう、空白状態を埋めるにはどうするか考えられる調整役の仕組みを整えておくこと。
などが必要だと考えているそうです。
そして食料や支援物資の配分など避難者支援としてできることを、被災者自身が主体的に行うという心構えも大切ですね。
今回も会場の参加者に皆さんからたくさんの質問が出て、盛り上がりました。荒木さん、参加者のみなさんありがとうございました。