第81回げんさいカフェを開催しました

「パイプラインの耐震性をどう高めるか」

ゲスト:パイプラインの専門家 菅沼 淳さん
   (名古屋大学減災連携研究センターライフライン地盤防災産学協同研究部門准教授)

日時:2018年2月15日(木)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 「縁の下の力持ち」ということわざがありますが、まさにそれが実感できるカフェでした。
 私たちの暮らしを支えている上下水道や都市ガスなどのパイプラインは、たいてい地下に埋まっていて普段その姿を見ることはありません。黒子に徹しているわけですね。でもさらに、そんなパイプラインが大地震の時に壊れないよう、いろんな計算をして耐震設計をしている研究者・技術者たちがいるのだ(まさに黒子中の黒子)ということに、改めて気づかされました。

 ゲストの菅沼さんは、長年、大手ガス会社でパイプライン等の設計や研究をしてこられた方。去年4月から減災連携研究センターのメンバーに加わりました。
 一口にパイプラインといっても、用途と材質にはいろんな種類があります。
 下水道によく使われる鉄筋コンクリート製のヒューム管、高圧ガス、石油などの輸送に使われる鋼管、そのほかにも鋳鉄管、塩化ビニル管、ポリエチレン管などがあります。菅沼さんが鋼管とポリエチレン管のサンプルを持って来てくださって見せてくれました。

 菅沼さんによると、パイプラインの多くは地下に埋まっているため、地上にある建物の耐震設計とは、地震への備えの考え方が違うのだそうです。
 地上に建っている建物では、地震の揺れによる「加速度」にどれだけ耐えるかが問題になりますが、地下に埋まっているパイプラインの場合は、地震の揺れでどれだけ「変位」が生じるかが最も重要です。確かに、地下のパイプは、地震で揺れている間も上下左右の土にがっちり固められていますから、最終的に、周囲からどのような力を受けて変形してしまうかどうかが問題なんですね。

 菅沼さんたち研究者は、地震の揺れがその地域の地盤にどう伝わり、パイプラインにどの方向からどのような力が加わるかを計算し、それに余裕を加えて耐震設計をします。
 その耐震設計では、パイプラインの敷設方向に対して横からかかってくる力と、敷設方向に対して縦にかかってくる力では、その影響力が全く違うので、それぞれ別の対応をするのがコツなのだそうです。ここが今回のカフェでいちばん「なるほどそうか」と、膝を打ったポイントでした。

 横から加わる力には「たわむ」ことで対応します。一見、硬そうにみえる鋼管ですが、長いパイプラインは結構たわんで変形にも耐えてくれるのだそうです。塩化ビニル管やポリエチレン管はもともと柔らかい材質ですから、たわんで耐えるのが得意です。
 問題は、パイプラインの敷設方向に対して縦にかかってくる力。これに対応するのはなかなか大変です。いざ地震の時には、敷設方向に対して引っ張る力と圧縮する力が、繰り返し何度も加わってくるのです。
 このうち引っ張る力に対しては、鋳鉄管の場合はつなぎ部分に余裕を作っておいてそこで対応し、鋼管の場合は鋼管そのものの延びで対応するよう設計されています。
 一方圧縮の力に対しては、鋳鉄管の場合はやはりつなぎ部分の余裕で対応、鋼管の場合はそうもいかないので、あらかじめ管路の途中にくの字型に曲がった部分を作っておき、そこで吸収するといった対応がとられているということです。

 パイプラインにとって最も厄介なのが、地震の時に起きる地盤の液状化です。
 周りの土が液状化してしまうと、最終的に、液状化が収まった後で地盤沈下が発生し、埋設パイプラインを押し下げる力が働きます。
 そこで耐震設計では、その場所の液状化のしやすさを考慮して計算します。液状化が起きやすい場所では、仮に5%の地盤沈下が起きてもパイプラインが壊れないように設計しているそうです。また高さ5メートル以上の護岸から100メートル以 内を通る時には、液状化によって土が横方向に移動する「側方流動」も考慮して設計しています。
 また、液状化する地盤の傾斜が1%以上ある場合も、「側方流動」を考慮しないといけなくなるそうです。昔、川が流れていたところとその両岸などは、地盤に傾斜がついている場合があり、要注意なのだそうです。たいへんなんですね。

 会場からは「ガス管や水道管の工事では、その場所の土ではなく砂で埋め戻しているが、耐震設計に影響は出ないのか」(実際には影響はないそうです)とか、「昔使われていた鉛管は、いまはどこに?」(いまは水道管への新たな使用は行われていないそうです)などたくさんの質問が出て今回も盛り上がりました。参加者の皆さん、菅沼さん、どうもありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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