第78回げんさいカフェを開催しました

「地震予測研究のこれまでとこれから」

ゲスト:地震学者 山岡 耕春さん
   (名古屋大学大学院環境学研究科地火山研究センター教授)

日時:2017年11月13日(月)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 皆さんは、2017年11月1日から、東海地震に関する「注意情報」や「予知情報」が出なくなったということをご存知でしたか?(防災の日にテレビで何度も見た「判定会の先生がパトカーで気象庁に駆け付ける」という場面は、もう見られないのです・笑)
 それに代わって気象庁はこの日から「南海トラフ地震に関連する情報」を出すという運用を始めました。つまりこの日を境に、我が国の地震予測に関するしくみが大幅に変わったわけですが、こうした変化のきっかけとなった報告をまとめた国の調査部会の座長の山岡さんを、今回のカフェのゲストにお招きしました。

 山岡さんによると、カフェのタイトルの「これまでとこれから」には二重の意味がかかっているのだそうです。一つは上に述べたような、気象庁の地震予測のしくみが変わったということ。そしてもう一つは、もっと地震学的な意味合いで、地震が「起きる前」の予測から「起きた後」の予測に変わったということなのだそうです。

 地震が「起きる前」の予測というのはわかりやすいですね。その一つが、気象庁がこれまで東海地震でやろうとしていた、観測等によって何かの前兆をとらえ、いつ、どこで、どれくらいの地震が起きるかを直前に予測しようという考え方です。しかしこれに対して国の作業部会は、今の科学では「地震を精度良く予測することは難しい」という結論をまとめました。最近の研究で「規模の小さな地震も大きな地震も始まりはみなほぼ同じで、地震が結局どのような規模になるかは、最初は判断できない」というデータが得られたのもその根拠となったと山岡さんが紹介してくださいました。

 では地震が「起きた後」の予測というのは、どういう意味なのでしょう。それは地震が発生するによって誘発される地震についての確率論的な予測のことだそうです。これについては経験則でもあり統計的な予測が可能です。例えば、余震の発生回数は時間に反比例して減っていくという「大森則」や、地震の規模(マグニチュード)と地震の発生頻度は反比例するという「GR則」などです。いまも地震の後、気象庁が余震発生の可能性について発表したりしていますから、こちらは実用段階ですね。
 ただ確率論的に予測可能といっても、いま心配されている南海トラフ巨大地震をめぐっては頭の痛い問題があり、実際に山岡さんの調査部会にはそれらの問題が突き付けられたのだそうです。
 例えば、東海地方から四国地方の沖合までと想定されている震源域のうち、東海側だけあるいは南海側だけでマグニチュード8クラスの巨大地震が起きたら、反対側でいつ起きると予測されるのか。また、想定震源域の中で一回り小さい地震、例えばマグニチュード7クラスの地震が起きたら、マグニチュード8クラスの巨大地震が起きる可能性はどうなるのか、などです。これらはいずれも過去に似たようなことがありました。山岡さんによると、こういう予測は可能だけれども、その確率はとても低いものになるのではないかとのことです。
 でも冒頭に述べたような気象庁の新しいしくみでは、こういうことが起きた時に、地震学者らでつくる「評価委員会」が何かの結論をまとめ、「南海トラフ地震に関する情報」として気象庁が発表する体制になっています。本当に大丈夫なのか、と私は個人的に思いました。

 しかし地震はいつ起きるかわからないと考えて、家の耐震性を見直し家具を固定するというのは、個人として当然やっておきたいことです。(地震予知体制をとっている東海地震でさえ突発地震がありうると、国はこれまでも言ってました)これまで通りしっかり備えましょう。
 そして国が地震が「起きる前」の予測をすることはなくなり、「起きた後」の予測についても、とても低い確率でしか予測してくれないということになったのですから、私たちはそれに頼ることなく、自分の身は自分で守るという心構えでいかないといけないということを改めて確認させられたカフェでした。

 山岡さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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