第46回げんさいカフェを開催しました

「耐震工学実験を通して考える巨大地震への防御方法」

耐震工学者 長江 拓也さん
名古屋大学減災連携研究センター准教授

企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との
共催で実施しています。

 E―ディフェンスというのは、独立行政法人防災科学技術研究所が兵庫県三木市に作った世界最大の三次元震動破壊実験施設。1200トンの重さの実物大の建物を、阪神淡路大震災の時の揺れや、想定されている南海トラフ巨大地震の揺れで実際に揺らしてみることができます。今回のゲストの長江さんは、長年このE-ディフェンスを使った実験による研究をしてこられた方です。
 最先端の研究をするだけでなく、それを地域に広げる拠点として地域と連携して減災をめざしていく名古屋大学減災連携研究センターの理念に共感して、長江さんは名古屋大学にいらっしゃいました。愛知県瀬戸市出身ということもこの地域に愛着を持っていただけた理由だそうです。

 さて阪神・淡路大震災から10年をかけて完成したこのE-ディフェンス。まずはあの震災で、1981年以前の古い耐震基準で建った建物の被害がきわめて大きかったことを受けて、そうした建物をどう補強するか、その補強によって本当に建物の倒壊や大破が避けられるようになるかどうかという実験が続けられたそうです。
 全国の学校や公共施設で、建物の外側の壁に斜めの鉄骨が貼り付けられているのを時折見ますが、あの補強方法はE-ディフェンスの実験でその実力が確かめられているのだそうです。

 次に長江さんが取り組んだのが長周期地震動による超高層ビルの揺れの研究。すでに日本中に2500以上ある超高層ビルの8割が南海トラフ巨大地震で影響を受ける場所にあるので、この研究はとても重要です。
 最近まで、長周期地震動で超高層ビルがどのような被害を受けるのか、あまり十分には知られていませんでした。長江さんたちの研究の結果、設計時に考えていた揺れの5倍くらいの強さまではなんとか超高層ビルの建物は倒壊しないということで、まずは一安心。しかし最上階の室内はとんでもない揺れが長く続くと予想されているので、備えは大切です。
 南海地震が起きたときに神戸市にある30階建てのビルの室内がどうなるのかという実験映像を見ると、大型のコピー機が走り回り、ロッカーやタンスなどが中にいる人形に次々と襲い掛かっていました。家具固定の重要性が、映像を見るとよく伝わってきました。
 
 長江さんは最後にいま最新の研究を紹介してくれました。
 耐震基準はこれまで、地震の揺れで建物が多少壊れたとしても、中にいる人が亡くなったり怪我をしたりしない(グシャっと潰れない)ことを目標にしてきました。しかし2011年のクライストチャーチの地震の例を見ると、完全に倒壊した建物は2棟だけでしたが、その周囲の建物も一部が壊れてしまうと復興作業の中で結局みな撤去されてしまったのだそうです。町並み全体が失われてしまうのです。ですから長江さんは、来るべき南海トラフ巨大地震に備えて、わが国でも地震で揺れても壊れない街を作っておくことが必要だと考えています。しかしすべての建物を免震構造にするお金はありません。
 ではどうするか?その一つのアイデアが「基礎すべり」なのだそうです。鉄筋コンクリート建物の柱と基礎の間に“あるもの”を挟み込んでおくことで、普段は耐震構造だけれども、極めて強い地震の揺れが来た時だけ免震構造の建物ようにふるまうことが期待されるというものです。

 その“あるもの”とは何かについては「今年12月に行われる予定のE-ディフェンスの実験でその効果が確かめられたら新聞記事やニュースで見られるでしょう」と長江さん。我々は期待をして待っておきましょう。長江さんは。発表後にまたげんさいカフェのゲストとして来てくれると約束してくださいました。
 参加者のみなさん、長江さん、どうもありがとうございました。

日時:2015年3月4日(水)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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