内容:南海トラフ地震臨時情報は何のために発表されるのか
講師:平田 直 さん(東京大学 名誉教授)
日時:2025年11月6日(木)16:30〜18:00
場所:名古屋大学減災館1階減災ホール・オンライン
【講師からのメッセージ】
2024年8月8日、日向灘でM7.1の地震が発生し、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を初めて発表した。この情報の意味が十分理解されなかったことを踏まえ、本講演では、情報そのものと、それに伴う国の呼びかけの背景、意味および課題を論じる。
【内容紹介】
平田直先生(東京大学名誉教授、地震調査委員長、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会会長)は、地震学者として国の地震調査研究や地震防災対策立案に中心的な役割を果たしてこられました。今回の防災アカデミーでは、南海トラフ地震とはどのようなものか、また南海トラフ地震い関して政府から発表されている様々な情報をどう理解し防災に生かすべきか、といった社会的関心の大変高い内容について、大変詳しくお話しいただきました。講演の最初には、政府の地震関連組織を束ねる役職としての立場も踏まえつつ、あくまで一人の地震研究者としての考えを述べるという発言がありました。
最初の話題は、南海トラフ地震の長期発生確率の見直しに関することでした。今年9月にこの内容が公表された際、今後30年間の地震発生確率として2種類の値が示されて分かりにくいといった評判がありましたが、こうした評価には認識論的な不確実性とデータの不確実性という2種類の不確かさを考慮する必要があること、また、そもそも発生回数が少ない大地震に対して確率を適用することの限界などを分かり易く解説していただきました。何より重要なこととして、南海トラフ地震の発生の確率はいずれにしても高く、また大きな被害が予測されることが強調されました。
次に、南海トラフ地震で予想される被害の甚大さについて述べられた後、人的被害を減らすためには津波からの早期避難が何よりも重要であることが述べられました。その上で、国としては地震予知に基づく防災対応を止めたこと、全員に一律に同じ災害対応が必要なのではなく、各人の脆弱性によって取るべき対応が異なること、そうした個別の対応を可能にするために南海トラフ臨時情報が設けられたことなどが説明されました。
2011年に東北地方太平沖地震が発生する2日前にM7.3の地震が起きており、世界中の地震を調べると、このように1週間以内で大地震が続発するケースが1,437回中6回あったそうです。100回に1回も起きない計算にはなりますが、通常よりは数倍可能性が高まっており、南海トラフ地震が万が一起きた場合に、津波の避難が間に合わない恐れがある地域やとっさの避難行動が取れない方が事前避難等の対策が取れるよう発出されるのが臨時情報です。南海トラフ地震臨時情報の対象となる沿岸部の市町村では事前避難対象地域を指定することが定められています。各自治体の対応を調査したところ、事前避難対象地域が含まれる自治体のうち四分の1が検討をしていないそうです。これは行政の怠慢であり、もっとこうした問題が広く知られるべきとの指摘がなされました。
南海トラフ地震は近い将来起こりうる大きな脅威であり、国、地方それぞれに様々な対応が取られていると思いますが、本講演は、そうした取り組みがまだまだ途上であることを再認識する貴重な機会となりました。平田先生のお話は非常に分かり易く、この講演を聞いて頂ければ、南海トラフ地震に対する取り組みがよく分かるのにと思いましたが、逆に、社会が物事を正しく理解するにはこれくらい説明を尽くす必要がある、ということを改めて認識する機会となりました。
会場46名、オンライン270名、合わせて316名の方に参加いただきました。
(鷺谷 威 記)










