内容:波に対する港湾施設の設計と高潮・高波・津波防災
講師:平山 克也 さん(国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 沿岸水工研究領域長/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
日時:2025年5月20日(火)16:30〜18:00
場所:名古屋大学減災館1階減災ホール・オンライン
【講師からのメッセージ】
我が国の貿易量の99.6%を担う港湾の施設は、船舶の安全かつ効率的な荷役を支えるために日々の波に対してどのように設計され、また、気候変動に伴い今後懸念される海面上昇や強大化する台風による高潮・高波、東南海・南海トラフ地震などの巨大地震による津波にどう備えるのか、最新の研究状況を交えて紹介する。
【内容紹介】
私たちの暮らしに欠かせない電気・ガスや燃料となる原油やLNG(液化天然ガス)は、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。また、食料品や衣料品も多くが輸入に支えられており、私たちの生活は海外との貿易に大きく依存しています。また、日本からの主要な輸出品は自動車であることは多くの方がご存知でしょう。こうした日本の貨物貿易の99.6%が港を通じて行われています。港が重要な社会基盤といわれるゆえんです。平山克也先生は、こうした港づくりや港の防災対策を進めるときに必ず考えなければならない「海の波」に関する専門家です。
一口に「海の波」と言ってもいろいろな種類があります。海岸で見るような、8秒未満の間隔(周期)で繰り返す風波、台風時などにやってくる十数秒のうねり、そして津波があります。さらに目に見えないけれど岸壁に係留した大型船を揺らして被害を発生させる長周期波という波もあるそうです。これらの波が海を伝わるときには、海底の地形、島や防波堤などの障害物の影響を受けて、進む向きが変わり(屈折)、障害物の背後に回り込み(回折)あるいは沖に返され(反射)、波の高さが変化し(浅水変形)、そして波の形を維持できなくなって砕けます(砕波)。平山先生は、そういった海の波の現象を再現できるNOWT-PARIという数値計算モデルを開発されました。模型実験結果を精度よく再現するこのモデルを使って、たとえば、2018年台風21号の高潮・高波によって神戸の六甲アイランドが浸水したときに何が起こっていたのかを推定した事例が示されました。
また、NOWPHASという波浪観測網が全国展開されていて、港に来襲する波の特性を観測しているという説明がありました。このデータを使って、港内静穏度解析という推定手法によって港の中の波の状態を推定し、もし船が安全に貨物を出し入れできないようであれば、防波堤の配置などを工夫して港の中の波をもっと抑えるといった対策もとられているそうです。
また、将来起こるとされている巨大地震の津波に備えた取り組みとして、防波堤がすぐに壊れないよう「粘り強さ」を防波堤に持たせ、少しでも避難の時間を稼ぐ工夫や、地球温暖化による海面上昇・台風の強化で、将来どれほど波や高潮が高くなるのかといった推定結果も紹介されました。
平山先生の講演では、100枚にもなるスライドに加え、たくさんのアニメーションや実験映像、現場の写真が使われ、港の大切さ、波の性質、港を守るための工夫など、幅広い内容がとても分かりやすく伝えられました。
(富田 孝史 記)
当日は会場参加26名、オンライン参加134名、合計160名の方にご参加いただきました。どうもありがとうございます。