第207回防災アカデミー(ハイブリッド)を開催しました(内容紹介掲載)

内容:アジア高山域における雪氷災害
講師:藤田 耕史 さん(名古屋大学大学院環境学研究科教授/減災連携研究センター兼任・協力教員)
日時:2025年4月8日(火)16:30〜18:00
場所:名古屋大学減災館1階減災ホール・オンライン


【講師からのメッセージ】
チベット高原を中心とするアジア高山域では、近年、温暖化による氷河縮小にともなって発生する雪氷災害に注目が集まっている。代表的な災害である氷河湖決壊洪水(GLOF)と氷河崩壊について、その実態と研究の現状を紹介する。

【内容紹介】
藤田耕史先生(名古屋大学大学院環境学研究科教授、減災連携研究センター協力教員)は、ヒマラヤをはじめとする山岳氷河の研究を続けてきた第一人者です。人為的な二酸化炭素の放出で生じている地球温暖化は、自然環境に様々な形で影響を与えていますが、山岳氷河の融解・縮小も、そうした影響が顕著に表れる現象の一つです。氷河が融解してできる氷河湖は、ときおり大規模な決壊により洪水を引き起こします。この現象は氷河湖決壊洪水(GLOF)と呼ばれますが、観測事例が少なく発生メカニズムや危険箇所など、不明な点が多いとのことです。藤田先生たちは、ブータンのトルトミ氷河とルゲ氷河について、20年もの長期にわたりGPS、リモートセンシング、ドローンなど様々な手法を用いて氷河の変動を記録し、その仕組みの解明を目指してきました。その結果、氷河湖が形成されることで氷河の流動の仕方が大きく変化すること、近年氷河の縮小が加速しており、氷河湖があると加速の度合いが強まることが明らかになりました。
世界的には最近30年間で氷河湖が約1.5倍に増え、山岳地域で開発が進むことにより危険が増えています。一方、GLOFの発生予測は困難で、危険度評価を行うための客観的な指標が無いことが課題でした。藤田先生のグループは、氷河湖の決壊危険度評価に取り組み、過去に決壊した氷河湖では決壊前の縁の傾斜が10度を超えていたことを見出しました。この角度を基準とすることで、危険度の高い氷河湖の分布や決壊時に予想される流量を推定できます。
意外なことに、近年の温暖化に伴うGLOFの増加傾向は見られないとのことですが、小規模な氷河湖でも甚大な被害をもたらす場合があり、また、氷河湖の地形は変化が速いため、注意深く監視することが必要です。
また、近年では氷河そのものが崩壊して被害をもたらす事例もあることが紹介されました。2015年のネパール・ゴルカ地震では山岳地域で多数の雪崩や斜面崩壊が起きて大きな被害が出ました。藤田先生はネパール人の留学生らと地形変化を分析しましたが、この大被害には前の冬の大量の積雪の影響があったと考えられ、極めて不運な災害だったそうです。より安全な場所に移るよう村人に提案してみましたが、結局は元の土地で再建が進んでいるそうで、研究による知見を減災に生かすのは一筋縄ではいかないようです。
質疑応答では、GLOFの地域性や決壊が生じる原因などについての質問が出ましたが、研究事例が少なくよく分からないことが多いとのことでした。今回は日本とは全く異なる環境での災害に関する内容でしたが、原因となる自然の理解が困難なこと、自然を注意深く監視・観察することが重要なこと、科学的知見を防災に活かすことの重要性と難しさなど、日本の現状にも通じる点が多々ありました。世界に広く関心を持って災害を軽減する取り組みを続けていくことの重要性を改めて感じる貴重な機会となりました。
会場、オンラインを併せて145名の方がご参加くださいました。
(鷺谷 威 記)

 

 

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