第140回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催、報告文を掲載しました

歴史史料の可視化で南海トラフ地震を検討する

ゲスト:地震学者 山中 佳子 さん
(名古屋大学大学院環境学研究科地震火山研究センター准教授/減災連携研究センター兼任・協力教員)
日時:2023月7月7日(金)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学特任教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 日本で地震観測が始まる明治5年より昔の地震のことを歴史地震と呼びますが、そのころは地震計などもなかったので、歴史史料、つまり藩や寺の公式記録、個人の日記などをもとに研究されてきました。
 くずし字で書かれた古文書を読み解き、それぞれの記述から、ここでこれくらいの揺れがあった、ここにこれくらいの津波が来た、ということを一つ一つ確かめて地震の全体像を明らかにしていきます。
 ただ藩や寺の記録はだいたい、その地震で何人亡くなったとか、どこどこが地震で壊れたのでその修理のためにいくら使ったとか、そういう断片的な記録が多いですし、個人の日記も、日々いろんなことを書いているわけですから、そこから地震に関する情報をうまく見つけ出して、まとめ上げないといけません。たいへんな作業ですね。

 こうした歴史地震研究は、これまで多数の研究者によって行われてきており、その成果は論文や書籍として出版されています。
 問題は、それが場所ごと地震ごとにまとまっているわけではないということです。ですからある研究者が、過去の地震について詳しく調べたいと思った場合、その元史料は、既刊の歴史地震史料集や研究者の論文にばらばらに載っているという状態。その道の権威の人なら、すぐどこに元の史料があるとわかるのでしょうが、例えば学生や若い研究者が、新たにこうした研究に取り組もうとする時には困ってしまいます。
 そこで今回のゲスト・地震学者の山中佳子さんは、そうした史料をデータベース化してさらにそれをコンピュータ上の地図に反映されるGIS=地図情報システムをつかったシステムの構築に取り組んでいるということなのです。このシステムを使うと、自分の知りたい場所の地図をクリックするだけで、その場所の歴史地震の史料がすぐに探しだせるようになります。


 こうやって歴史地震の史料を地図情報システムで可視化することにより、新しい展開も生まれています。
 それは、こうして作った歴史地震史料マップに、他の、例えば「標高マップ」や「地盤の揺れやすさマップ」などを重ね合わせることによって、新たな事実が確認できたりするからです。
 その実例を、山中さんがあげてくださいました。
 安政東海地震の時、和歌山県新宮市で、ある地域ではたくさんのお寺が倒壊したのに、比較的近くにあるお寺は被害が小さかったという史料の解釈です。
 歴史地震の研究では、建物の壊れ方などで震度を推定して、その分布から、地震の震源やマグニチュードを推定することも多いことから、建物の壊れ方というのは重要なポイントです。お寺の建物というのはだいたい、普通の庶民の住宅より頑丈に作られていますから、これが壊れたかどうかは、震度の推定の上で重要な判断基準となります。
 ところが同じ地区で、地震で壊れたお寺と壊れてないお寺があると、震度をどう推定するか難しい判断が求められます。
 そこで今回、山中さんが「地盤の揺れやすさマップ」と重ね合わせてみると、被害の大きかったお寺は、比較的揺れやすい地盤のところにあり、被害の小さかったお寺は地盤のいい、比較的揺れにくい地盤のところにあったということがわかり、より精度の高い震度の推定ができたということです。

 また歴史地震の史料を地図情報システムで可視化することで地震ごとの被害の比較もしやすくなったそうです。史料に書かれた地震の様子は人それぞれ表現方法が違います。しかし史料を地図情報システムで整理することで、地域ごとに史料の比較ができるので、表現は違ってもどんな現象を伝えようとしているのかが見えてきます。
 例えば三重県南部では宝永地震の津波の到来は揺れ終わってから飯を炊くくらいの時間があったと書かれていますが、安政東海地震では煙草4,5服程度であったことがわかりました。つまり津波の発生域が宝永地震より安政東海地震の方が三重県南部に近かったということも推測できます。

 昔の古文書の史料が、そうやって現代的な技術で可視化されることでより解釈が深まることもありそうですね。
 これもコンピューターを使いこなせる地震学者が、歴史地震研究に取り組んだことが、そういう展開につながったということなのかもしれません。

 今回も174人の方に会場とオンラインでご参加いただきました。
 山中さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


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