第139回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催、報告文を掲載しました

飼い馴らさない防災学

ゲスト:泥くさい防災研究者 田中 隆文 さん
(名古屋大学大学院生命農学研究科准教授/減災連携研究センター兼任・協力教員)
日時:2023月6月8日(木)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学特任教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 今回のカフェのタイトルは「飼い馴らさない防災学」。
 謎めいたタイトルです。飼い馴らされた科学とはいったい何なのでしょうか。
 「科学と社会」の関係について深い考察をされている今回のゲストの田中さんが、ひとつの例としてあげてくださったのが気象庁の「土砂災害の危険度分布=土砂キキクル」でした。
 このシステムは、過去の災害履歴のデータなどをもとに、いまの雨の振り方だと、その場所の土砂災害の可能性がどれくらい高くなっているかを示すもので、普段私たちも頼りにしているものです。
 しかしその計算の時には、過去の災害履歴のうち、落石や地滑り、単発の崖崩れ、人里離れた場所の崖崩れなどのデータは除外されているのだそうです。
なぜなら再現性、客観性、普遍性を追求することが通常の科学の手法であり、それらの例外的なデータを全部入れてしまうと、あまりに複雑すぎて、いつも成立するきれいな計算式にならないからです。
 しかし、現実にはそうやって例外だからと外したところで、崖崩れが起きてしまうことだってあり得ます。
 田中さんは、その場所で実際に災害が起きるかどうかは、そうやって科学者が大事にしているやり方「普遍性」「客観性」「再現性」とは真逆の「個別性」「当事者性」「一過性」が重要な要素になるとおっしゃいます。例えばこの道はいつも大雨のたびに水浸しになるといった、町内会単位、あるいはその川の流域単位で、地元の人ならみんな知っているような、いわば「地域の知恵」がより重要なのだそうです。
 こうした「個別性」「当事者性」を加味せずに、数式だけでわかったつもりになっている科学、つまり「飼い馴らされた防災学」ではダメだというのが、田中さんのご意見です。

 

 ではどうすれば「飼い馴らされない科学」になるのか。
 田中さんはその解決策の一つとして、地域の知恵をもりこんだ「地区防災計画」の普及がカギだとおっしゃっていました。これは市町村の地域防災計画よりもっと細かい、町内会単位などでつくる防災計画で、まさに「個別性」「当事者性」が大切にされます。それを市町村の地域防災計画に盛り込むことができるのです。
 専門家のもつ「普遍的」で「客観的」な知識の上に、地元住民のもつ「ローカルな知識」を上乗せして決めることができ、しかも現実にあわせて何度も何度も作り直すこともできるので「一過性」の想定外をなくしていくことができるということです。

 東日本台風と名付けられた2019年台風19号の時、千曲川の堤防が決壊して浸水した長野市長沼地区穂保には、あらかじめ地区防災計画が作られていたため、住民の素早い避難が実現し、人的被害を最小限に抑えることができたという実例があります。

 思えばこのげんさいカフェも「科学と社会」とのより良い関係を求めて、双方向コミュニケーションの実現を目指しています。その考え方=哲学が、地区防災計画の重要性ともつながっていることを初めて教えていただき、まさに目からウロコのカフェでした。
 今回も166人の方に、会場とオンラインでご参加いただきました。田中さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

 

→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら
 

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