第135回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

災害時のライフライン途絶を想定したエネルギー確保について考える

ゲスト:ライフライン防災研究者 小沢 裕治 さん
   (名古屋大学減災連携研究センターライフライン防災産学協同研究部門特任准教授)
日時:2023月2月21日(火)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 南海トラフ巨大地震では、電気ガス水道などのライフラインが途絶することが想定されています。そこで今回のカフェでは、ライフライン防災研究者である小沢裕治さんにゲストに来ていただき、どのような備えが必要なのか考えました。
 まず大地震で停電が起きる理由について、大規模停電=ブラックアウトが起きた2018年の北海道胆振東部地震を例にお話いただきました。
 この時の地震では、震源の近くに苫東厚真火力発電所という大きな発電所があったためだということは、みなさんも覚えていらっしゃると思いますが、実はそれだけではありませんでした。
 震源近くの苫東厚真発電所だけではなく他の発電所もドミノ倒しのように次々と止まってしまったのだそうです。遠く離れた水力発電所とか風力発電所まで止まったそうで、結局北海道全域で停電となってしまいました。
 そうしたドミノ倒しが起きた理由の1つは「私たちが使っている電力が交流だから」ということ。東日本では周波数が50ヘルツ、西日本では60ヘルツで、1秒間に50回とか60回プラスマイナスが入れ替わっています。ふだんはこれが安定しています。
 そして、もう1つの理由は、電力はある地域で需要と供給が常にバランスするようにコントロールされていなければならないということです。
 地震が起きると、まず需給のバランスが崩れます。地震の時には、電車が止まったりするので需要のほうも少し落ちるのですが、それよりも発電所が止まって供給のほうが大きく下がってしまうと、地域全体で電力のエネルギーが足りなくなり、交流の周波数が下がってしまうのだそうです。そうなると普段その周波数に合わせて回転している工場などのモーターが壊れたり、発電所の発電機自身も壊れてしまったりする恐れがあります。
 同じ周波数を維持するのがいかに大変か、カフェでは、自転車で同じ速度で走り続けるということに例えて、小沢さんが下のようなオリジナルの図で説明してくださいました。

 こうした大停電は南海トラフ地震の時にも起きる可能性が高いとされています。
 国の被害想定では、停電は2,600万件から3,000万件で起き、東日本大震災の時の4倍以上になると予想されています。
 そして回復までには少なくとも1週間ほどがかかるとされているのです。
 一方、地方自治体や災害拠点病院など、いざという時に住民を助ける側の施設は、72時間=3日間の停電に耐えられるよう自家発電設備の燃料を確保するという計画となっています。つまり停電が1週間も続くと、自家発電の燃料が足りなくなる恐れがあるわけです。
 これについて国の計画では、72時間以内には緊急物資輸送路が再開するはずなので、自家発電の燃料は届くという想定になっています。
 これじゃ綱渡りだな、という感じがしますが、こうした想定でさえ、2つの点で不安があると小沢さんはおっしゃってました。

 
 1つは12年前の東日本大震災の経験です。この時、多数の自家発電設備がうまく動かなかったということです。総務省消防庁が自家発電設備4,800台余りについて調べたところ、そのうち5%くらいの233台が、東日本大震災の時に、実際に動かなかったり、異常停止したりしたのだそうです。
 その理由は、メンテナンス不良や燃料切れなどだったそうですが、いつも点検をしたり訓練したりしていないとダメですね。消防庁も自家発電設備の点検を促進するため、消防法の一部で緩和、強化を織り交ぜた改訂を行いました。
 そしてもう1つが燃料を運搬するタンクローリーが足りなくなる恐れがあることです。
 病院や役所などの大規模な自家発電設備の多くはA重油を使っているのですが、それを運ぶことのできるタンクローリーは全国で1,000台くらいしかないのだそうです。
 南海トラフ地震の被害想定では、被災地では、300くらいの市町村役場に対して4日に1回、150くらいの災害拠点病院に対しては1日1回の給油が必要だとされていて、全国で1,000台くらいのタンクローリーではとても足りないという事態が考えられます。
 もっと増やすことができないのかと思うのが自然ですが、普段はA重油のタンクローリーそんなに需要がないのだそうで、そう簡単ではないようです。ガソリンや軽油を運ぶタンクローリーは別に6,000台近くあるんですが、油の種類が違うと流用はできないのだそうです。小沢さんは、今後根本的な対策が必要だとおっしゃっていました。

 小沢さんからは、各家庭での停電への備えについても、お話がありました。
 いちばん最近の変化は、電気自動車やハイブリッド車の普及です。これはいざという時に電源になります。またカセットコンロのボンベで動かせる小規模の発電機などもありますから各家庭で備えをしてほしいとのことでした。

 会場からは、A重油を運べるタンクローリーが少ないことも心配だが、それを運転する資格を持ったドライバーが緊急時に確保できるのかという質問や、スマホ充電のための直流電源の確保が大切になっているのではないかという意見も出て、討論が盛り上がりました。小沢さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

 

 

→ポスター(PDF)

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