温故知新で本気で地震対策を!
ゲスト:地震工学者 福和 伸夫 さん
(名古屋大学名誉教授)
日時:2023月1月16日(月)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
毎年最初のげんさいカフェには地震工学者の福和伸夫さんに来ていただいて、今年の展望を聞くのが恒例となっています。
さて今年2023年は、防災・減災にとってどんな年ですか?とお聞きしましたら、まず最後に3のつく年は要注意というお話でした。
今年が関東大震災から100年ということは皆さんご存じだと思いますが、この関東大震災は1923年で3が付きますね。
それだけではありません。その10年後の1933年に、昭和の三陸地震、さらに10年後の1943年に鳥取地震、そして1983年には日本海中部地震、1993年には奥尻島の津波被害を起こした北海道南西沖地震、さらに2003年には十勝沖地震が起きています。
福和さんによると、実はそれ以前にも、日本では3のつく年に大きな地震が起きています。
古くは1293年の鎌倉大地震、永仁鎌倉地震ともいわれてますが、これは大正の関東大震災と同じ相模トラフのプレート境界地震だと考えられています。この時2万人以上が亡くなったという記録もあり、当時の日本の人口はいまの10分の1以下ですから、現代でいえば数十万人がなくなるような大地震だったと言えます。これを受けて元号も改められています。
そして1703年、やはり3のつく年に、関東大震災の一つ前にあたる、元禄関東地震が起きています。これも被害が大きくて、房総半島で6000人が亡くなったという記録があります。
こうしてみると、歴史上分かっている相模トラフのプレート境界地震の最近の3つは、みんな3の年に起きているっていうことです。ちょっと不気味ですよね。
もちろん地震はいつ起きるかわかりませんから、3の年が要注意というのは福和さん流のユーモア。しかし、こうやって過去の地震を思い起こさせて、防災への気持ちを向けるのが得意な福和さんらしい予言といえますね。
さて、温故知新ということで、こうやって過去の地震を振り返って、現代社会の弱点はいったい何かということで、今回のカフェでは「長周期地震動」がひとつの話題になりました。
長周期地震動は、ガタガタというゆれではなく、ゆっさゆっさという、ゆったりした揺れのこと。地震の揺れはいろんな周期の揺れの集合体なのですが、大きな地震では、そのうちのゆっくり揺れる成分=長周期地震動も強くなります。
この長周期地震動は、巨大な建築物や構造物、つまり超高層ビルや石油タンクなどを大きく揺らします。しかも、なかなか減衰せず遠くまで届いてしまうという性質があります。
実は、福和さんが最初にこの長周期の揺れを体験したのが、3の年の地震のうちの1983年の日本海中部地震だったそうで、この時震源は秋田県の能代半島沖だったのに、東京都内のビルの27階で働いていた若き日の福和さんは、恐怖を感じるほど揺れ続けたのでそうです。
そして多くの人の注目を集めたのがやはり3の年の地震で2003年の十勝沖地震。大型石油タンクが揺すられて火災が発生し、それが3日間くらい消せないという事態になりました。
さらに東日本大震災の時も、震源から700キロ近く離れた大阪で、地上の揺れは震度3くらいだったというのに、55階建ての大阪府の咲洲(さきしま)庁舎が、めちゃくちゃ揺れたということです。天井の落下や、床の亀裂などが360箇所、エレベーターも26基が緊急停止して、うち4基にあわせて5人が閉じこめられました。エレベーターのワイヤロープが絡まって、なかなか復旧できないということも起きました。
この被害は大きな津波被害の陰にかくれて、あまり注目されませんでしたが、これから心配される南海トラフ巨大地震では、震源に近い、名古屋、大阪、東京にたくさんの超高層ビルがありますから心配です。
この長周期地震動に関しては、2023年2月から、長周期地震動階級を考慮した緊急地震速報を発表することになりました。速報されるのは、長周期地震動階級3以上、つまり立っているのが困難になる、固定していない家具が走り回るような状況以上になると考えられる場合です。
(気象庁ウエブサイトより)
これまで長周期地震動階級は地震後30分くらいたってからの発表でしたので、緊急地震速報と同時に発表されるようになれば、場所によっては揺れ始める前に届くようになります。この速報でエレベーターが停まってくれれば、閉じ込めとか防げることになるでしょう。
ただ、現在のエレベーターは、地震のP波を観測して止めるタイプのものが多くて、緊急地震速報を受信して止めるタイプはまだ少ないようですので、これからそういうタイプの普及が期待されますね。
いずれにしても、長周期地震動への対策というのは、まだ始まったばかりです。
国土交通省は、2016年に、とりあえず南海トラフ巨大地震への対策として、関東、静岡、中京、大阪地区で、設計時に対策をとりなさいしなさいという告示をしましたが、全国的にはまだまだです。
直下型の地震でも、熊本地震では地震の断層が地表まであらわれてしまったことで、長周期の短く強いゆれ=長周期パルスが発生して、高層ビルが被害を受けたということがありましたから、これからも決して長周期地震動を侮らず、しっかりと対策を講じていかないといけないですね。
また福和さんは南海トラフ地震の臨時情報が出た時に、高層ビルにいる人がどのような対応を取るべきかというのもこれからの課題だとお話になりました。
参加者からは「最近は制振を売り物にする超高層のマンションなどがあるが、それをどう評価しますか」という質問が出て、福和さんは「安全性を高めるためプラスアルファとして制振を追加したのであればいいことだが、そうではなく、制振を追加したのでその分柱を細く設計できるという考えで導入したのであれば、あまり好ましくない」と答えていました。
今回も会場とオンラインであわせて236人の方に参加いただきました。福和さん、参加者の皆さんありがとうございました。