「コンクリート耐久性の研究最前線」
建築材料学者 丸山 一平 さん
名古屋大学大学院環境学研究科准教授
企画・ファシリテータ:隈本邦彦
(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
共催で実施しています。
今回のゲスト丸山一平さんは、コンクリートの強さや耐久性の秘密を分子のサイズからコンクリートが目で見えるサイズまで,さまざまなスケールで解明しようとしている研究者です。いま最もホットな研究テーマは、原子力発電所の炉心付近で、強い中性子線やガンマ線にさらされているコンクリートが長期的にどう変化するかという問題。日本ではいますべての原子力発電所が停止していますが、国際的には多数の原子炉がいまも運転されており、その寿命を考える上でとても注目されている研究だそうです。
丸山さんは、その答えを出すためには、まずそもそも普通の状態のコンクリートが熱や乾燥でどのように変化するかを詳しく解明することが必要だと考えています。長年の研究でわかってきたのは、コンクリートの構成成分であるセメントペースト(水とセメントが反応してできた固体のことをセメントペーストと呼びます。)は、ある時は多孔質の硬い固体としてふるまうかと思えば、ある時はのりのように水分量の変化で硬さが変わるコロイドとしてふるまうという二面性を持っているということ。セメントペーストは、時間をかけて乾燥していくといったん強度が落ちてくるのに、さらに乾燥させると逆に強度があがってくるという現象がおきるのですが、それはそうしたセメントペーストの二面性の影響がそれぞれあらわれてくるためだということが研究の結果わかってきたそうです。
そもそも今回のカフェのテーマは、以前のカフェで参加者の皆さんから「コンクリートの建物は何年もつのか」という質問が出て、それを専門家に聞いてみようということで選ばれたものです。丸山さんにその質問をぶつけてみると、研究の結果、良い骨材(砂利や砂)を選び良い状態に置かれているコンクリートは乾燥すればどんどん硬さを増すことがわかってきたので、「いつまでも持つと言ってもいい」と答えてくださいました。
ただしその後の会場の皆さんとの対話(質疑応答)の中でわかってきたのは、例えコンクリートが大丈夫でも中に入っている鉄筋が腐食すれば壊れることもある、また骨材の質が悪いと長い間にそれが膨らんでコンクリートを中から壊してしまう「アルカリ骨材反応」も過去には起きていることなど。実際に建っているコンクリートの建物が全部いつまでも安心ということではないようです。そしてコンクリートが硫黄を含む土壌に接触していると化学反応を起こしてしまう「硫酸塩劣化」という現象も紹介され、そんな土地に開発された住宅地では、家の基礎部分がぼろぼろになってしまったりすることもあるのだとか。
さて南海トラフ巨大地震で心配されるのは、ゆっくりとした揺れの長周期地震動が超高層建物に与える影響です。最近は超高層マンションなど背の高いコンクリート建物も増えていますよね。コンクリート耐久性研究の立場から、こうした地震の揺れの影響を質問された丸山さんは「コンクリートが乾燥していくと(年を経ていくと)弾性的に曲がりやすくなることがわかっているので、その建物が揺れやすい「固有周期」も、設計時とはかなり変化する可能性があり、特に重要な建物ではそうした要素を考えておくべき」と答えていました。
難しそうな研究データのグラフを、丁寧に説明してくださる丸山さんに会場からの質問もたくさん出ていました。コンクリートの秘密の一端を知ることができた有意義なカフェになりました。丸山さん、ありがとうございました。
日時:2013年12月4日(水)18:00〜19:30
名古屋大学カフェフロンテ(環境総合館斜め前、本屋フロンテの2階。ダイニングフォレスト向かい)
げんさいカフェのファシリテータについて
げんさいカフェのファシリテータは、NHK時代に科学報道に長く関わられた、サイエンスコミュニケーションの専門家である隈本邦彦氏(江戸川大学教授/減災連携研究センター客員教授)にお願いしております。毎回のカフェのゲストである各分野の専門家から、市民目線で科学的知見を聞き出し、分かり易い言葉で参加者に伝える事で、従来にない防災教育・啓発の実践が可能になります。