第118回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

豪雨と地震と土砂災害

ゲスト:地盤防災学者 利藤 房男 さん
    (名古屋大学減災連携研究センター地域社会防災計画(応用地質)寄附研究部門特任教授)
日時:2021年 9月10日(金)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 土砂災害といえば、今年7月初めに起きた熱海の“土石流”災害が記憶に新しいところです。ところが、今回のカフェのゲスト、地盤防災がご専門の利藤さんによると、「これは土石流ではない」のだそうです。

 利藤さんは、あの災害の発生直後に行われた学会の現地調査にも参加されたそうで、これは土石流ではなく泥流と呼ぶ方が妥当であるという認識を持ったとのことです。
 土石流というのは読んで字のごとく、「土」と「岩」が「水」とともに急速に斜面を流れ下る現象です。ところが、災害現場にはほとんど岩石がころがっていませんでした。利藤さんが撮影した現場写真を何枚か見せていただきましたが、ほとんど「土」と「水」だけが押し寄せて、家や植生を流していたということです。
 ですから今回の出来事は、「熱海の土石流災害」ではなく「熱海の泥流災害」と呼ぶべきものだったということなんですね。

 今回の災害は、少し上流のところの谷が土砂で埋められていて、その「盛土が崩れたことによるものが原因となった」と報道されています。利藤さんたちの調査でも、谷に積み上げられていた土の量と、今回流れ下った土の量がほぼ同じくらいということでしたので、それが原因であることはほぼ間違いないようです。
 しかし利藤さんは、「あれを盛土と呼んで欲しくない」とおっしゃっています。確かに谷を埋めて土が盛ってあったわけですから、一般的には盛土で間違いないのですが、あれを、住宅を建てるために造成される「宅地盛土」とか、鉄道を通すための「鉄道盛土」などと一緒にしないでほしいというということでした。まったく作り方や安全基準が違うからです。
 例えば、宅地盛土は、過去の災害経験をもとに、締固めや、中にしみこむ水の処理の方法などがきっちりと決められていて、多少の大雨なんかでは崩れないように作られています。鉄道の盛土は、さらに厳しい基準で締固められているのだそうです。
 一方、今回の泥流の原因になった、建設残土などを埋めた盛土には、そのような対策がしっかり行われていなかったようです。だから、専門家からみると、あれは盛土と呼ばずに「投棄残土」と呼んでほしいということなのだそうです。
 このような建設残土や廃棄物などの盛土については、各地方自治体の条例で規制されているのが現状で、全国にはそのような条例を持っていない自治体がある上に、自治体ごとに監視の在り方なども相当な違いがあります。そこで、いま、熱海の事例を教訓に、法律によって、全国一律の基準でもっと厳しい規制をすべきという議論が高まっているということです。

 カフェでは「地震のときの盛土災害」の話題も出ました。
 宅地盛土は、通常の大雨くらいではそう簡単に崩れないように作られているのですが、過去の大地震の時には、崩れる被害が何度も出ています。
 特に大きく注目されたのは1978年の宮城県沖地震の時。被害がひどかったのは宅地盛土を規制している「宅地造成等規制法」が制定された1961年より前に造成された盛土でした。その後法律は厳しくなりましたが、2011年の東日本大震災の時には、やっぱり同じ場所に被害が出たということです。
 そこでいま国土交通省では、全国の5万1000か所の大規模造成盛土を抽出して、その安全性を把握する調査を行っています。これを急がないといけませんね。
 1923年の関東大震災では、大規模な崩壊地が2000か所以上発生しています。長い目でみると、そこから現在に至るまで、100年近くをかけて次第に植生などが回復している過程なのだそうです。こうした巨大地震による崩壊地発生に比べたら、その後の伊勢湾台風による崩壊地発生箇所数は10分の1以下。つまり専門家からすれば、大雨も怖いが、やっぱり大地震が怖いということだそうです。

 今回も240人の方に参加していただきました。参加者の皆さんからは「自分の住んでいる盛り土が崩れる危険性はどうやったらわかるのでしょうか」という質問が出て、利藤さんからは「まずは現場をよく見て、盛土と切土の境界付近の地面にクラックが入っていないか、擁壁が壊れ始めていないか、そして水の流れが大切なので、雨の時に排水溝が詰まっていたりしないか、そんなポイントをチェックをしてみるといい」というお答えでした。
 また、同じ宅地造成地でしたら、切土のところのほうが盛土のところよりも安全なのですが、自分の家のある場所が切土なのか盛土なのかは、昔の地図と今の地図を比較できる国土地理院のウェブサイトや、埼玉大学の先生が作っている「今昔マップ」というのがインターネット上にありますので、それを使って調べたらよいということでした。
 利藤さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

cafe118
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