第84回げんさいカフェを開催しました

「南海トラフ地震に関する情報(臨時)」が出されたら・・・

ゲスト:地殻変動学者 鷺谷 威 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)

日時:2018年5月9日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 9月1日の防災の日の訓練といえば、昔から「東海地震の予知情報が出て、それに基づいて総理大臣が警戒宣言を出す」という段取りでした。しかし、皆さんが慣れ親しんだこんなしくみは去年=2017年の11月1日から、無くなっていたのです。ご存知でしたか。
 この日から気象庁は、従来の「東海地震だけが対象の」しかも「予知の可能性を前提にした」しくみを改めて、新しく「南海トラフ全体(東海沖から九州沖まで)」を対象として「南海トラフ地震に関連する情報」を発表するという体制にしました。

 このうち毎月の定例会議の後に出される「南海トラフ地震に関連する情報(定例)」はいいのですが、“南海トラフ沿いで異常な現象が観測された時”などに発表されることになった「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」が、大問題です。
 もしこれが出された時、私たちはそれをどう受け止めるべきなのか、今回のカフェでは、専門家の鷺谷さんとの対話で改めて考えてみました。

 国の巨大地震に対する対応が変わった理由は、中央防災会議での専門家らの検討の結果「現状では科学的に確度の高い地震の予測は困難」という見解が出されたことによるものです。つまり今の科学では、いつ、どこで、どれくらいの大きさの地震が起きるか正確に予知するのは難しいので、それを前提とした防災対策はやめることにした、というわけです。
 にもかかわらず、去年11月から実施されている体制は、より広い範囲(東海地震の震源域⇒南海トラフ地震の震源域)に対象を広げ、そこで何か異常な現象が観測されたら、気象庁の委員会が検討をして情報を出すという体制になったのです。
 「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」が出されるのは、
 (1)南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、それが大地震と関連するかどうか委員会が調査を始めた時
 (2)調査した結果、地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された時
 (3)高まった状態ではなくなったと評価された時
 となっています。
 地震予知はやめたというのに、「地震発生の可能性が高まった」という情報は出るかもしれないというのです。いったいこれをどう受け止めればいいのでしょう。考えれば考えるほどよくわからなくなります。
 
 鷺谷さんは、個人的見解として、気象庁がいくつか想定している「南海トラフ沿いの異常な現象」のうち、例えば、▲震源域内にマグニチュード7.0以上の地震が発生した場合や、▲地下の岩盤の動きを捉える「ひずみ計」に変化があった場合などに、それが南海トラフ巨大地震につながるかどうか、的確に判断するのは相当難しいだろうと考えているそうです。
 というのも、その基準を、南海トラフ沿いで過去に実際に起きた現象にあてはめて見た場合、1944年の昭和の東南海地震、46年の昭和の南海地震、68年と96年の日向灘地震、さらに2000年ごろに東海地方で観測されたスロースリップ、2004年の紀伊半島南東沖地震、2009年の駿河湾地震などが該当してしまうからです。そのいずれの出来事も、次にいつ何が起きるか的確に予測することは困難だと考えられます。
 例えば昭和の東南海地震の時には、2年後にその西側で昭和の南海地震が起きたのですが、そのことを東南海地震が起きた時点で予測することは不可能だったでしょう。
 また2度の日向灘地震も、スロースリップも、紀伊半島沖の地震、駿河湾地震も、結局別の巨大地震につながることはありませんでした。でも結果としてそうなっただけで、それぞれの現象の発生直後に、観測データなどから、その後の展開を予測することはかなり難しそうです。「情報(臨時)」は出たけど、結果的に“空振り”ということが繰り返される恐れがあります。

 「情報(臨時)」は地震予知情報ではないので、この「情報(臨時)」が場合に、国民に求められていることは「日ごろの地震への備えを見直す」ことだけなのだそうです。かつての「東海地震予知」を前提としたしくみの時には、自治体や企業が警戒宣言発表時にどのような対応をするか、あらかじめ計画を立てることが求められていましたが、いまはそれがなくなったわけですから「情報(臨時)」に自治体や企業がどう対応するかはこれからの課題です。
 カフェでいろいろ対話をしているうちに心配になったのは、「情報(臨時)」は、何か異常な現象が観測され気象庁の検討会が調査を「始めた」だけで出されるということで、それが臨時ニュースとしてテレビ・ラジオで流れると、中には必要以上に慌てたりする人も出てくるのではないかということです。
 参加者のみなさんからも「最初から大げさに報道することを自粛できないのか」「いやメディアが情報を国民に知らせないという判断はありえないのでは」などという話が出ていました。
 
 気象庁によれば、現在のしくみは「新たな防災対応が定められるまでの当面の間」だということなのですが、明日にでも「情報(臨時)」が出るかもしれないわけですから、我々としても、この「情報(臨時)」にどう対応するか、考えておかなければと改めて気づいたカフェでした。

 鷺谷さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。
 


→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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