第138回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催、報告文を掲載しました

トルコ・シリア地震、何が起きたのか

ゲスト:地殻変動学者 鷺谷 威 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)
日時:2023月5月29日(月)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学特任教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 今年2月に起きたトルコ・シリア地震では5万人を超える方が亡くなるという大災害となってしまいました。そこで、げんさいカフェでは2回にわたってこの地震を考えてみることにしました。
 第1回目は「何が起きたのか」ということで、地震や地殻変動に詳しい鷺谷威さんにお話いただき、8月には第2回目として耐震工学に詳しい長江拓也さんに「被害の特徴」などについて伺うことにしています。

 さて「何が起きたのか?」ということですが、今回のトルコ・シリア地震はマグニチュード7.8と7.5という、どちらもめったに起きないくらいの大きな地震が、同じ日に、しかもすぐ近くで起きるという、世界の地震の歴史の中でも非常に珍しい地震だったということです。
 最初の地震が、現地時間の午前4時17分、そして最大余震ともいうべき2番目の地震はその日の午後1時24分ですから、約9時間後ということになります。こうやって大地震が連続で起きたことが、今回たくさんの犠牲者が出た理由の一つと考えられます。
 地震は、ご存知の通り、地下の断層に歪みがたまって、それが一気に解放される時に起きます。今回この二つの地震を起こした震源断層は、同じ東アナトリア断層帯に属しているものの、いちおう別のものだということで、どうやら最初の大地震が起きたことで、次の地震が起こりやすくなって誘発されたのだと推定されています。
 大きな地震で周辺の地下の歪みの分布が変わり、そこに地震が起きる寸前の状態になっていた断層があったために、誘発されて地震を起こすという現象が起きたと考えられるそうです。

 

 今回の地震では「なるほど地震はこういう起き方もするのか」と驚かされる点がいくつかあったそうです。
 例えば1回目の震源地震は、東アナトリア断層帯の中でも、ここ1000年近く地震が起きていなかったと考えられる、いわゆる空白域にあたる場所でした。一方、今回の震源断層の北側と南側には、それぞれ100年から200年ほど前に地震を起こしていた断層がありました。それが今回は、北側と南側の断層も一緒に動いて地震を起こしていたことがわかったというのです。つまり断層がA・B・Cと連なっているところで、そのうち真ん中のBだけはここ1000年ほど動いていなかったので、次はBだけが動くのかなと思っていたら、なんとA・B・Cが全部一緒に動いてしまったというわけです。
 地震断層が長くなればなるほど地震で放出されるエネルギー=つまりマグニチュードが大きくなります。それで今回はマグニチュード7.8という、内陸の地震としては世界最大級の地震になってしまったようです。
 鷺谷さんは、このことは今後の地震を考える上で大きな教訓となると話していました。
 というのも現在日本でも、例えばある活断層で将来起きる地震の可能性を予測する場合、その活断層の長さと、過去何千年に一度くらい地震を起こしていたかなどを調べて、それを予測の根拠としています。しかしそれはある活断層が、同じような大きさの地震を同じ場所で繰り返し起こしているということを前提にした考え方です。
 しかし今回のトルコ・シリア地震は、必ずしもそういう起き方ばかりではないと、我々に教えてくれたのではないかと鷺谷さんはおっしゃっていました。

 また今回のように、地震が起きる寸前の状態にまでなっている活断層があると、近くで起きる大きな地震によって誘発され連動することもあるということも重要です。これは以前から知られていた現象ではありますが、それがこのような大地震も誘発することがあるということには、私も驚かされました。
 日本でも1586年の天正地震は、近畿、東海、北陸の広い範囲で甚大な被害が出ていながら戦国時代という時代背景もあって記録があまり残っていないため、実はどこが震源断層なのかいまだに論争になっているという謎の地震です。しかしこの地震も、いくつかの震源断層が連動して起きたと解釈することができれば、あまりに広い範囲の被害をうまく説明できるかもしれないということでした。
 その10年後の1596年に立て続けに起きたとされる慶長豊後地震、慶長伊予地震、さらにその直後に起きたとされる慶長伏見地震も、同じ中央構造線ぞいの連動地震と考えることができそうです。つまり今回トルコ・シリア地震で起こったような連動地震が、戦国時代の日本で起きていたのかもしれないということでした。
 東アナトリア断層帯の歪みのたまり方は年間1センチ程度と、日本の比較的活動度の高い内陸の活断層、例えば中央構造線や糸魚川静岡構造線と同じくらいだということで、今回のトルコ・シリア地震も決して対岸の火事と考えてはいけないとあらためて思いました。

 それにしても地震発生からわずか3、4ヶ月で、そんなに詳しい状況がわかるようになったということにも驚かされました。
 鷺谷さんによると、いまは地震系その他の観測データが、ほぼリアルタイムで公表され、世界中の研究者がこぞって分析できるようになっています。そしてそれを解析する手法も年々レベルアップしていますから、今回のトルコ・シリア地震も、すでに3ヶ月ほどで専門家のチェックを受けた査読ずみの論文が10以上もあるそうです。それをもとにした今回のカフェでは「何が起きたのか」をじっくりと考えることができました。
 今回も189人の方に会場とオンラインでご参加いただきました。鷺谷さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

 


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