第76回げんさいカフェを開催しました

「津波シミュレーション研究最前線」

ゲスト:津波学者 富田 孝史さん
   (名古屋大学大学院環境学研究科教授 減災連携研究センター兼任)

日時:2017年9月6日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 今回のゲストは、パリ帰りの研究者、富田さんです。パリと言っても、おフランスにある“花のパリ”ではなく、横須賀にある国立の研究所PARI(Port and Airport Research Institute=港湾空港技術研究所)のこと。富田さんはPARIで20年近く研究されておられて、久しぶりに母校の名古屋大学に戻ってこられた研究者で、減災連携研究センターの兼任教員でもあります。

 富田さんの最近の研究テーマの1つが津波のシミュレーション。沿岸部の地形や構造物のデータをあらかじめコンピュータに入れておいて、そこに津波のデータを入力すると、どのような被害が生じるか「リアル」なシミュレーション映像を見ることができます。
 カフェの冒頭では、東日本大震災級の津波が港を襲った時のシミュレーション映像を見せていただきました。徐々に海面が上昇してきて、港に置いてあったコンテナが流されたり、停泊中の大型船が流されたりする様子が見事に表現されていました。
 かつてはスーパーコンピュータで長い時間計算しないとできなかったこのような細密な津波シミュレーションも、最近では少し性能のいいデスクトップパソコンなら2,3日で作れるようになっているということです。すごい進歩ですね。

 では、こうした津波シミュレーション研究の進歩は、どのように防災に生かされているのでしょうか。富田さんは2つの具体例を教えてくださいました。
 1つは、津波被害が予想される地域で、建物や人口分布のデータを使って、いざという時の住民の避難行動のシミュレーションを行った事例です。南米のある都市を大きな津波が襲った場合、現状では犠牲者が多数でると予測されるのに対して、避難のための道路を2つ追加することで犠牲者を大幅に減らすことができるという結果が出ました。こうしたシミュレーションは、国や自治体による事前の防災・減災対策に役立てることが期待できます。
 もう1つの事例は、沿岸地域の人たちが、自分たちの津波避難計画を考える場合にこのような津波シミュレーションを参考にするというケースです。
 地元の地形や建物のデータを入力すれば、実際に津波がどの方向からどのような速さで襲ってくるのか目の前のパソコンで見ながら避難対策を話し合うことが可能です。
 とはいえ、富田さんによると、せっかくこのような津波シミュレーションができるようになったのに、現実の地域の防災計画づくりに役立てるためには課題があるということでした。なぜなら、シミュレーションの映像が詳細であればあるほど「津波被害が自分の家に来るのか?来ないのか?」が気になるようになるし、人によっては「こんなシミュレーションをされたら我が家の資産価値が下がるじゃないか」という反応をする人がいるからなのだそうです。残念な話です。
 「詳細」で「リアル」なシミュレーションの実現は、富田さんたちのこれまでの研究と努力の成果ではありますが、逆にその映像が「詳細」で「リアル」であればあるほど、一般の人たちに、それが“現実に起きること”だと勘違いさせてしまう副作用があります。シミュレーションというのは、ある前提条件を設定したうえでの「一つの計算結果」であり、あくまで参考として生かすべきだということが、忘れられがちなのですね。気を付けないといけません。


 津波シミュレーション活用の今後の可能性として、最後に富田さんがお話ししてくださったのは、南海トラフ巨大地震に向けた「リアルタイム津波ハザードマップ」についてです。津波が沖合で発生してから、それが沿岸に到着するまでの間に、急いでシミュレーションをしてしまおうという大胆な試み。国交省が日本列島の沖合に設置しているGPS波浪計(海岸から20キロほど沖に浮かべたブイ)のデータを使って、海面の上下変動のデータをリアルタイムで入手し、そのデータを使って、それが沿岸地域をどのように襲うかを具体的に計算します。実際に計算をやってみると、地震発生から5分間の海面変動のデータを使って、そこから75秒くらいで津波がどのように沿岸部を襲うかシミュレーションできたということです。
 東日本大震災では、気象庁の津波警報の精度がまだまだ不十分だと感じましたが、こうした津波シミュレーションの研究は、将来の津波警報の高度化にも役立ちそうですね。

 今回も会場の皆さんからたくさんの質問が出て、対話が盛り上がりました。参加者の皆さん、富田さん、どうもありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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