第58回げんさいカフェを開催しました

「東日本大震災から5年/被災地の復興は進んでいるのか」

ゲスト:経済学者 山﨑 雅人さん
(名古屋大学減災連携研究センター地域社会防災計画寄附研究部門助教)

日時:2016年3月9日(水)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館 減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 東日本大震災から5年が経過したいま、被災地の復興はどうなっているのか、いい方向に向かっているのか、東海地方にいるとそれがよく見えてきません。そこで普段は災害の経済被害予測などを研究している若手の経済学者の意見を聞いてみました。
 山﨑さんは、被災直後の2011年7月から、定期的に同じ被災地を訪れ、復興の状況を調べているそうです。現地で聞き取り調査なども行い、また「復興事業」はどうあるべきかについて分析を行っています。

 復興庁の資料によると、今年(2016年)1月現在で、まだ18万2000人の避難者がいます。この中にはプレハブの仮設住宅にいる人、自治体が借り上げた賃貸住宅にいる人たち、親戚に身を寄せている人もいますが、いずれにしてもこれだけたくさんの人が、いまだに元の生活に戻れずにいるのです。山﨑さんは“まだとても復興しているとは言えない”とおっしゃいます。

 では「復興事業」の進行状況はどうか。
 復興事業として様々な事業が行われていますが、津波の被害が大きかった被災地では防潮堤の建設や、土地を10メートル以上もかさ上げしたり、住民に高台に集団移転してもらったり、徹底的に津波に対して安全なまちに作り変えようとしています。こうした安全な街づくりが、一部でちょっと“やり過ぎ”なのではないかという批判がでていますが、山﨑さんの考えでは、それは本来は避難で対応するべき大津波に対しても土木事業で守ろうという復興事業の考え方に起因するのではないかということです。
 震災後に国の中央防災会議は、今後の津波対策の方針として、津波の種類を「発生頻度は極めて低いものの、甚大な被害をもたらす最大クラス」と「発生頻度は高く、津波高は低いものの大きな被害をもたらす津波」の2種類のレベルにわけ、前者の最大レベル(今回の東日本大震災クラスの津波)には“住民避難を軸にした対応”をし、後者のレベルには“人命保護に加え、住民財産や地域経済の保護をめざす”つまり防潮堤などで守るという対応方針を示しました。
 ということは、本来、後者の津波に対する防潮堤を建設したら、高台移転や土地のかさ上げは今のように徹底的に行う必要はありません。避難道を整備するといった事は必要ですが、最大クラスの津波に対しては、住民が速やかに避難して命だけを守るという方針でいいはずです。しかし実際には各自治体とも、最大クラスの津波が来ても住宅地は浸水しないよう街づくりを考えているようなのです。
 より安全な街をめざそうということ自体は間違いとは言えませんが、各地でそういう選択をした結果、防潮堤を作っても、その内側の平地には誰も住めないというような、ちょっと矛盾した状況が次々と生まれています。
 また大規模に山を切り開いて住宅地を造成する高台移転事業も、その地域の被災住民の要望にうまくあっていないために移転がなかなか進まなかったり、それに伴って自治体が買い上げた土地の活用方法が、5年たっても決まらなかったりしているという問題も起きているそうです。何より工事が大規模になり,何年たっても終わらないことが問題です。これでは元の街に戻りたいという人も途中であきらめてしまいます。多額の予算で防潮堤や土地のかさ上げ、高台移転先を作ったにも関わらず、住民がもどってこない可能性があるのです。これでは多額の税金を使った大工事が無駄になってしまいます。

 この問題を経済学的に見てみると、“早期復興”の掛け声のもと、この5年間多額の国の税金が復興事業に注ぎ込まれましたが、そのほとんどが地元市町村の負担ほぼゼロで実現するしくみであるため、地元としても“この際できるだけ安全な街にしよう”という気持ちが働いているためと考えられるということです。確かに震災直後は、全国民がそんな気分でした。しかし、そうやって一度始まった公共事業はなかなか途中でやめることはできません。そうしたことがいま復興事業に一部に「やり過ぎ」批判がでるほどになっているわけですね。
 また復興のため、という大義名分がつくと、震災前には費用対効果が疑問視されていた高速道路建設もあっさり実現したりするようなこともあります。

 山﨑さんは、復興事業の予算規模を、もっと少ない、被害の実情や地域の経済、過疎化の程度に合わせた額にしておけば、本当に必要な事業は何かということに政府が知恵を絞ったのではないかと話しておられました。
 
 参加者の皆さんからは、地元自治体の議員たちはちゃんと調整をしているのかなどの質問が出て、今回も対話が盛り上がりました。いま東北で起きている問題は、いずれ私たちが南海トラフ巨大地震後に直面することかもしれず、しっかり考えておかなければいけない問題ですね。山﨑さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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