第49回げんさいカフェを開催しました

「水害被害を低減する河川工学」

河川工学者 田代 喬さん
(名古屋大学減災連携研究センターライフライン地盤防災寄附研究部門准教授)

日時:2015年6月3日(金)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館 減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 本格的な梅雨の季節を前に、今回取り上げたテーマは「河川工学が水害の低減化にどのような役割を果たしているか」です。

 冒頭、田代さんが示したグラフに、素人の私たちはほんとにびっくりしました。
 1970年代からの30年間の治水対策の効果で、日本国内で起きる水害の浸水面積は、年々順調に減ってきているのに(約20万ha→約3万ha)、水害による被害額は逆にこのところ急増しているというのです。例えば1995年から2004年までの10年間で被害額は2.6倍に増えました。(約1622億円→約4360億円)

 なぜこんなことになっているのか。田代さんによると、それは従来の水害のイメージである河川の増水による氾濫や堤防の決壊などによる被害、つまり外水氾濫が減っている一方で、都市部に降った雨が、下水道や側溝で排水しきれずに道路冠水などが起きる内水氾濫による被害が増えているからだということです。街中の下水道は1時間に50ミリくらいの雨が降っても排水できるということを目標に設計されているのですが、最近はそれを上回る雨がふることも珍しくなくなり、もともと都市部の水害は、自動車や工場の工作機械など高価なものが水に浸かるので、被害額はどうしても大きくなります。

 15年前の東海豪雨は、その外水氾濫と内水氾濫が同時に都市を襲った水害でした。

 まず外水氾濫は、新川の堤防の決壊です。これにより西枇杷島町など新川左岸の広い範囲が浸水し大きな被害が出ました。
 新川と庄内川はもともと並行して流れていて、つながっていなかったのですが、庄内川の水位が一定以上になると、「洗堰(あらいぜき)」という周りの堤防より少し低くなった場所からあふれた水が新川に流れ込む構造になっていました。東海豪雨の時には、毎秒270トンの水が新川に流れこみ、この影響で新川の水位は、これ以上高いと危険とされる計画高水位を14時間も超え続け、最後には堤防決壊という結果になりました。
 国が直轄管理する一級河川の庄内川は200年に一度の大雨がきても大丈夫という計画で整備されているのに、県が管理する2級河川の新川は30年に一度の大雨に耐える程度でよいと考えられていたため、この2つの河川の大雨に対する強さの差が、(弱い側の)新川の堤防決壊につながったのでした。
 東海豪雨の後、さすがに毎秒270トンを新川に流すのはひどいということで、その後洗堰の高さを1m上げる工事が行われ、いまは毎秒70トン程度に流入量が減らされたそうです。管理が国と県に分かれている、いわゆる縦割り行政の問題もあって、なかなか解決は難しかったということです。

 新川の堤防が決壊した付近の上空からの写真を見ると、決壊していない右岸側の町並みも水に浸かっているのがわかります。これは新川の水位が上がり過ぎて、支川からの水が流入できなくなり、ポンプ場も機能しなかったために支川の水が付近にあふれた内水氾濫だったのです。新川では同じ場所の左岸と右岸でそれぞれ外水氾濫と内水氾濫が起きていたのでした。
 東海豪雨では、他にも山崎川周辺などで内水氾濫の大きな被害がありました。

 従来の河川工学が取り組んできた、広い流域に100年に一度とか200年に一度の大雨を計算して、その外水氾濫を防ぐよう河川堤防を整備するといった治水対策では防ぎきれない、都市部の、ごく短時間に集中的に降るゲリラ豪雨などへの内水氾濫がいま増えており、まさにこうしたことへの対策が求められているということを感じました。
 田代さんにその点を伺うと、これまでの河川工学の知識は、水の流れの管理をするという点で、そうした都市型水害対策へも応用して生かすことができるとおっしゃっていました。頼もしく感じたのは私だけではないでしょう。

 会場からはたくさんの質問が出て、今回も対話が盛り上がりました。15年前に決壊した新川近くに住んでいる参加者の人もいらしたので、真剣な質疑応答となりました。

 私たち市民も、水害ハザードマップをもう一度読み返して、自宅が浸水する危険性について知っておいたり、避難経路のどこが水に浸かる可能性があるのか知っておいたりすることも大切だと改めて思いました。
 田代さん、参加者の皆さんありがとうございました。

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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