「人工震源で地震と火山を診る」
地震学者 山岡 耕春 さん
名古屋大学大学院環境学研究科教授
企画・ファシリテータ:隈本邦彦
(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
共催で実施しています。
今回のテーマはアクロス。正式名称は「精密制御定常信号システム」というそうですが、名前を聞いてもなんだかピンときません。実は名古屋大学が中心となって開発した新しい発想の地下の観測装置なのだそうです。
山岡さんが冒頭示したのは、ご自身が書いたというスイカの絵。スイカが食べごろになっているかどうかポンポンと叩いて試したことのある方も多いと思います。叩いて、その音や感触でスイカの中の様子を知ろうというわけですが、それが実はアクロスの原理なのだそうです。
次に登場した絵は、やはりなかなかお上手な(?)山岡さん手書きの「お医者さん」と「健康診断」のイメージ図。毎年毎年健康診断をしていると、ちょっとしたデータの変化に気づくことができます。アクロスはそういう考え方も取り入れています。
これまでも、自然に発生する地震波をつかって、地球内部の構造を知る研究が進められてきました。地震波は、地下の岩石の状態によって伝播速度が速まったり遅くなったりするからです。その速度分布を知ることで地下の状態を推測することができます。例えば、火山の下にあるマグマだまりの状態や、活断層の状態なども、地震波の速度変化である程度推定できると考えられています。それがより詳しくわかるようになれば将来、噴火予知や地震の予測に役立つかもしれません。
しかし自然の地震は時々しか起きないし、いつどこで起きるかはわかりません。しかも観測したい場所の近くでまったく地震が起きないことも考えられます。
そこでアクロスは、観測したい場所の近くで、人工的に継続して地震波を作り出し、それを周囲の地震計でとらえることでその場所の地下の情報を知ろうというものです。スイカをポンポンと叩くのと同じ原理ですね。
アクロスでは、大きなモーターでおもりをぐるぐる回しその振動を地面に伝えます。装置の名前が示すとおり、その振動が、とても精密に制御された信号なので、これをうまく処理することで、まわりのノイズの影響を大幅に減らすことができるのだそうです。しかも定常的に長い期間地震波を出し続けるられるという利点を生かし、ちょうど定期健康診断のように、ずっとその場所を調べ続けて、わずかな変化を発見することができると期待されています。
研究成果も上がっています。
阪神・淡路大震災の直後の1996年に震源断層近くの淡路島に設置されたアクロス第1号は、それ以降、長い間、断続的に地下の観測を続けてきました。その結果、2000年の鳥取県西部地震や2001年の芸予地震の発生時に、アクロスの真下の地下の様子(地震波の伝わり方)に、はっきりとした変化が捉えられました。地震の揺れや地下の岩石にかかる力の変化で、岩石に入っている細かいクラック(割れ)の状態に変化が生じたためと推定されます。
会場からは、アクロスの原理や、地下の活断層の観測にどの程度役立つのか?などいろいろな質問が出て、今回も対話が盛り上がりました。
いま鹿児島県の桜島では、アクロスによる観測が始まっています。今後のデータの詳しい解析で、噴火と地下のマグマの活動の変化との関係がより明らかになるかもしれません。期待したいですね。山岡さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。
日時:2014年7月2日(水)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー