第148回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催、報告文を掲載しました

令和5年台風2号から水害対策について考える

ゲスト:ライフライン研究者 羽田野 拓己 さん(名古屋大学減災連携研究センターライフライン防災産学協同研究部門特任助教)
日時:2024月3月26日(火)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学特任教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。

今回のカフェのテーマは、2023年5月31日から6月2日にかけて沖縄にかなり接近し、全国に大雨被害をもたらした台風5号です。ただ台風の被害そのものというより、この台風の時のように、夜中に大雨が降っている場合、いまどの地域に浸水が広がっているのかをリアルタイムに知ることができないかという新しい研究のお話でした。それをめざした研究が、この台風で被害を受けた愛知県豊橋市を舞台に始まっているのだそうです。

例えば、川の水位は、現在でも国土交通省や都道府県が川に水位計を設置して常に監視しています。ですから、いま川のどのあたりで氾濫が起きそうかということは、リアルタイムで知ることができます。ただ、実際に堤防を超えてしまったり、堤防が決壊したりしてしまった後に、浸水がどこまで広がっているかというのをリアルタイムで把握するのは水位計ではわかりません。
また最近、都市部を中心に増えている、降った雨が下水道や小河川の排水能力を超えてしまってあふれてしまう「内水氾濫」の範囲もリアルタイムで把握することは難しいです。
そこで羽田野さんたちが研究しているのは、その把握のために、合成開口レーダーを搭載している人工衛星のデータを使うことができないか、というものです。

ひまわりのような、光学衛星は、太陽の光が地面や雲に反射した光を捉えて画像をつくります。雲の動きなどを監視するためにはとても役立ちますが、実際に大雨が降っている時などには雲が邪魔をして地表の様子はあまりよくわかりません。
一方、合成開口レーダーというのは、衛星から電波を出して、地表から跳ね返ってくる電波を捉えてそれを画像にするという仕組みです。この電波は、雲や雨粒を通り過ぎるような波長が選ばれているので、雲があってもその下の地表の様子がわかるのだそうです。
そこで羽田野さんたちは、豊橋市の中心部、柳生川の流域で、去年の台風2号の時に浸水した範囲がどうだったのか、合成開口レーダーの画像を使って調べました。
地面に浸水が広がっていてそこに水がある場合と、ない場合では、電波の反射の度合いが違い、レーダーの画像が違います。ですから大雨が降る前の同じ場所の画像と比較すれば、いまどの範囲に浸水が広がっているかリアルタイムでわかるということなのです。その細かさは5メートル四方のデータがわかるという解像度だそうです。

ただ今回の解析では、台風2号による浸水範囲の一部しかわからなかったということでした。というのも羽田野さんたちが今回無料で手に入れた合成開口レーダーのデータは、大雨の降っている瞬間のデータではなくて、発災からまる1日後のものだったそうで、その時はもう水が引いていて、ほんの一部しか残っていなかったのではないか、ということでした。
でもそんなことにめげず、羽田野さんたちが引き続き将来に向けての可能性につながる研究を続けてくださるということです。期待しましょう。

合成開口レーダーを搭載した衛星は世界各国がたくさん飛ばしていますし、その精度も性能も日進月歩なのだそうです。そうしたデータを総合すれば、将来大雨の時にその浸水範囲がほぼリアルタイムに把握できる時代がくるかもしれませんね。

今回も、会場とオンライン合わせて92人の方が参加してくださいました。羽田野さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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