大規模地震の被害状況を電力需要で測る
ゲスト:地域モニタリング研究者 幸山 寛和 さん(名古屋大学減災連携研究センターエネルギー防災寄附研究部門特任助教)
日時:2024月2月26日(月)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学特任教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
今回のカフェは、電力需要、つまり電力使用量のデータを使って、各地の地震被害の様子をリアルタイムで知ることができないだろうかという未来に向けての研究のお話でした。
今年の正月の令和6年能登半島地震でもそうでしたが、震源にごく近い場所、大きな被害を受けたところでは、ほぼ停電してしまいます。その範囲は、電力会社がリアルタイムで把握できるので国や自治体も一番被害がひどい場所の状況はよくわかるわけです。
しかし停電はしていないけれども、それなりに被害を受けている場所、たとえば震源地に隣接する周辺の市町村の被害状況については、すぐわからないことが多いとされています。このことは、南海トラフ巨大地震の時のように、非常に広い範囲で被害が発生したときには、けっこう大きな問題になり得ます。国や自治体の災害対策本部に、各地の被害状況の情報が十分集まらないということが起きるのではないかと懸念されているのです。
その解決策の一つとして、今回のゲストの幸山寛和さんたちが着目したのが、電力需要、電力使用量のデータです。
電力使用量というのは、その地域の人々の社会経済活動の活発さの指標になります。たくさんの工場が動いたり、たくさんの人が活動したりすれば、それだけ電力が使われることになるからです。
そこで、例えば、地震が起きる前と後で、ある地域の電力使用量がどう変化したかを知ることで、地震によってその地域がどれくらい被害を受けたか、どれくらい社会経済活動が低下しているかを知ることができるかもしれない、というわけです。
各家庭や工場にあるスマートメーターには通信機能がついていて、電力使用量などのデータが30分に1回、1日48回、電力会社に常に送られる仕組みになっています。
そして災害時には、このデータが各自治体に無料で提供されることになっているのだそうです。ただそうやって電力データを災害後にまとめてもらっても、自治体がどう活用するか難しいですよね。その場所は平常時どれくらいの電力が使われているのか、元の状態がわからないと比較のしようがありません。
そこで幸山さんたちは、愛知県西三河地区の自治体の過去約3年分の電力データを購入し、最初の2年間については、季節の変動、気温、天候の変化、平日か休みの日かなど、いろんな要素が、その場所の電力需要にどのような影響を与えるかを徹底的にコンピュータに機械学習させ、平常時のこの地域の電力需要はこれくらいということが予測できるシステムをつくりました。
そして、何か平常とは違う現象が起きた時に、それが検出できるか、確かめてみたそうです。
この3年間に新型コロナの緊急事態宣言が何度か出ました。リモートワークが奨励されて、会社の電力需要が減り、個人のお宅の電力需要が増えました。その時期のデータをみてみると、しっかり宣言が出た直後に異常値が検出されました
また去年6月の台風2号では愛知県内でも被害が出ました。すると、被害の出た市ではしっかり異常が検出され、被害の出なかった市では異常が検出されませんでした。
残念ながら、何もないときにも異常が検出されたりしていますし、まだまだ改良の余地があるということです。まだまだ研究途上ですから、これからいろんな研究や検証を行って、災害時に各市町村に活用してもらうシステムに仕上げていきたいと幸山さんは話していました。
将来、このシステムが各自治体にあらかじめ整備されて、災害時に電力会社から提供されるデータをもとに、この地域では、本来このくらいの電気を使っているはずなのに使われていないから被害が出たのかもしれない、調査をしよう、支援物資を送る算段をしよう、というようなことができるようになるかもしれません。
今回も会場とオンラインで87人の方にご参加いただきました。幸山さん、参加者の皆さんありがとうございました。