第146回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催、報告文を掲載しました

※タイトルを一部変更いたしました(1/4)
「~最近1年の取組みと今後~」 → 「~能登半島地震を受けて~」
  

南海トラフ地震の再来に備える~能登半島地震を受けて~

ゲスト:地震工学者 福和 伸夫 さん(名古屋大学名誉教授)
日時:2024月1月15日(月)18:00~19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学特任教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。

毎年、年初のげんさいカフェは、地震工学者の福和伸夫さんに、その年の防災の展望についてお聞きしていますが、今年は元日に令和6年能登半島地震がありましたので、急きょお願いをしてタイトルに「能登半島地震を受けて」を追加していただきました。

今回の能登半島地震は内陸で起きる活断層の地震としては国内最大級の地震だったそうです。気象庁マグニチュードは7.6ですが、モーメントマグニチュードという地震断層の大きさから地震のエネルギーを比較する尺度で比べると、明治時代の濃尾地震(気象庁マグニチュード8.0)よりもちょっと大きかったかもしれないくらいなのだそうです。

日本海側でもこんな大地震が起きるんだと、ちょっと驚かされましたが、福和さんによると、それは驚くことではないのだそうです。過去約100年間を振り返ってみると、1925年の北但馬地震から、1927年の北丹後地震、1943年の鳥取地震、1948年の福井地震、1983年の日本海中部地震、そして1993年の北海道南西沖地震など、マグニチュード7クラスの地震は今回を入れると15個目だということ。100年間に15個ですから約7年に1回はマグニチュード7クラスの大地震がおきていて、これは決して驚くことではないし、むしろ今回の震源付近では、3年前からかなり活発な群発地震が起きていたのですから、近くの活断層が動くという地震は、想定されてしかるべきだったとおっしゃっています。
今回は大津波警報も出ました。
しかし能登半島の外浦側では、地震と同時に4メートルほど隆起したので、いちばん津波の大きくなりそうな場所が、その隆起と相殺される形で津波がそれほど高くなりませんでした。一方で内浦地区では、隆起が起きなかったため、能登半島の先端を回り込むように津波がやってきて浸水被害が出ました。

もともとのカフェのタイトルは「南海トラフ地震の再来に備える」でした。今回の能登半島地震から私たちは何を学ぶべきでしょうか。
福和さんよると、今回の能登半島地震で起きたこと、そしてこの地震でみんなが困ったことは、すべて南海トラフ地震でも起きることという認識を持つべきだということです。
例えば、大規模停電、断水、通信システムの遮断、津波、家屋の倒壊による多数の死者、液状化による被害、地震火災、みんな南海トラフ巨大地震で起きると予想されていることです。
しかもそれが、場合によっては100倍の規模でやってくることを覚悟する必要があるということでした。南海トラフ地震で想定されている最大級のマグニチュード9が起きれば地震のエネルギーは今回の約100倍です。さらに被災が予想される地域に住む人の人口は数百倍、人口密度も高い地域です。

そして今回の地震のもう一つの注目点は、石川県能登地方が、気象庁の長周期地震階級最大の4となったことです。高層ビルの上階では立っていることができず、這うことしかできない、揺れにほんろうされる。固定していない家具がほとんど倒れるという揺れです。
長周期地震動階級3=歩くことが困難になるくらいの揺れも、石川県加賀地方、新潟県上中下越、富山県東部西部、長野県中部と、広い範囲で観測されました。
おそらく南海トラフ巨大地震では、もっと強い長周期地震動が、もっと広い範囲を襲うと想定されています。そして、その影響を強くうける超高層ビルが多数あるのが東京、大阪、名古屋などの大都市なのです。
長周期地震動は遠くまであまり衰えずに届きます。例えば新潟県中越地震では東京六本木の54階建てビルのエレベーターのワイヤーが切断、東日本大震災では震源から800キロ近く離れた大阪にある55階建てビルが十分間以上も揺れて、天井や床など300か所以上が損傷するといったことが起きています。
今回の能登半島地震でも、震源から遠いのに、東京23区、愛知県西部、大阪府南部は、長周期地震動階級2と、周りよりも1つ大きかったことが注目されています。東京・大阪などの大都市にいま超高層マンションがどんどん建てられていますが、このようなマンション群が、南海トラフ地震後もすべて無傷ですむとは、私も思えません。
福和さんによると、これらの超高層マンション群は、震度7でどこも損傷しないという設計にはなっていないそうです。でも、少しでも損傷したら住み続けることが難しくなり財産価値が激減するかもしれません。仮に建物全体が損傷しなくても、停電、断水、エレベーター故障で、結局、避難所生活ということも予想されますので、備えが余計に大切になります。

そしてやはり今回も、住宅の耐震性の問題がクローズアップされました。
全国の住宅の耐震化率は87%ですが、今回の被災地、輪島や珠洲はだいたい50%前後でした。
心配されていた地震火災も起きてしまいました。当時、大津波警報が出ていて住民が避難しなければならず初期消火が十分できなかったことと、断水で消火栓が使えず、川から消防車の水を引こうとしても地盤の隆起で川の水が干上がっていたこと、道路の亀裂や土砂崩れ、液状化などで道路が寸断されていて別の地区から消防が駆けつけることができなかったことなど悪条件が重なりました。今回のように木造住宅が密集している場所は、南海トラフ地震で被害が想定されている地区にもまだたくさん残っていますので、地震火災の初期消火に失敗すると同じ事が懸念されるのです。

輪島市では7階建てのビルが倒壊しました。1972年竣工のビルなので、旧耐震設計法で設計されたと考えられ、帯筋が少ないビルだったと考えられます、さらに杭も、設計上重さに耐えるだけでよいとされた時期のものでした。
実は、東京、大阪、名古屋などの大都市の目抜き通りには、同じように旧耐震のビルで、しかも間口が狭くて奥行きの長い背の高いビルが多数あります。
それが緊急輸送道路の沿道に建っていると、これらのビルの倒壊は、震災の被害を拡大してしまうおそれがあります。

地盤の隆起でいくつかの港が使用不能になりました。南海トラフでは、日本を支える製造業の拠点の港が、津波被害などで軒並み使えなくなる恐れが指摘されています。発電所も製油所もみんな海辺に作られています。こういう地域が巨大津波に見舞われると、国民の生活、国の生産の根幹にかかわる危機が起こりうることを考えなければなりません。

お話を聞けば聞くほど、南海トラフ地震への備えをしっかりとしなければと改めて思うカフェでした。私達には、あまりにひどすぎる被害には目を向けない、考えないことにしてしまうという悪い癖があります。今回の能登半島地震は、そういう態度ではいけないと私たちに警告を発してくれたのかもしれません。

今回も会場とオンラインで392人の方にご参加いただきました。福和さん、参加者の皆さんありがとうございました。

→ポスター(PDF)

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