第132回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

災害時要配慮者の避難の問題点〜2016年熊本地震の経験から〜

ゲスト:建築・都市安全学者 木作 尚子 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任准教授)
日時:2022年11月4日(金)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 

 今回のカフェのテーマの「災害時要配慮者」ちょっと難しい言葉ですが、要するに災害の時の避難に何らかの援助が必要な方、つまりお年寄りや障がいのある者の方のことです。この皆さんの避難と、その後の避難生活を考えようというカフェでした。
 この分野の研究をされている減災連携研究センターの木作尚子さんにゲストに来ていただきました。木作さんは、2016年の熊本地震の時に、福祉避難所について大変詳しい調査をされた専門家です。
 実はこの福祉避難所という考え方は、もうすぐ28年になる阪神・淡路大震災の時に生まれたのだそうです。災害時の避難所といえば公民館とか学校の体育館とかですよね。そういうところはバリアフリーになっていないし、介護が必要なお年寄りや障がいのある方は避難生活が続けにくいということが、この震災で広く知られるようになりました。
 そこで、普段から、お年寄りや障がいのある方が利用する公共施設や福祉施設、こういうところは部屋もトイレもバリアフリー化されて、特別な入浴施設などもあるところもありますので、ここで避難生活をおくってもらったほうがいいということになり、公共施設だけではとても足りませんから、あらかじめ地域にある福祉施設と協定を結んで、いざ災害ということになったら、そういう避難者を受け入れてもらうという約束をしておくということが全国的に行われるようになりました。
 そうした備えが熊本地震の時には生かされ、地元紙の熊本日日新聞によると、ピーク時には101か所の福祉避難所に823人の方が避難していたということです。
 ただ木作さんたちの調査では、いろいろこの制度の問題点も同時に明らかになってきました。
 その一つは受け入れる施設側の負担です。
 木作さんたちは被災地の135の高齢者施設などを対象に調査しました。このうち100施設が何らかの形で被災者を受け入れていましたが、それによってどういう業務が多くなってしまったかを聞いたところ、一番多かったのが「食糧確保・提供」次が「避難者受入」だったということなんですね。


 もちろん災害時には、避難所での食糧確保・提供も避難者受入もどこも大変なんですが、ここに福祉避難所特有の問題がありました。
 実は、福祉避難所というのは、従来からある指定避難所と違って、地元の市町村との間で協定を結んでいるだけで、実際の避難者受入に備えて「食料や水の備蓄」までしているとは限りません。
 そして、市町村職員も、指定避難所の運営に手いっぱいなので、被災者を受け入れた福祉避難所にまで、職員が派遣されていないところがほとんどで、職員が巡回するとか、ファックス連絡だけで対応というところもあったということです。
 そこで当該施設の職員の方が「食糧確保・提供」や、「避難者受入」などに追われるということが起きてしまっていました。
 そしてそれに対してどう対応しましたか、という調査に対して、受け入れた施設の職員の方は、みんな残業時間を増やしたり、他の通常業務を後回しにしたりして、対応したと答えるところが多かったということです。


 福祉避難所として行政と協定を結んだところでは、後で、かかった費用も行政から支払われるのですが、またその請求手続きが、細かくて大変でこれも業務を増やしていたという皮肉なことも起きていました。
 こうしたことから、単に協定を結ぶだけではなくて、食料・水の備蓄や、人的な支援など制度的な改善なのではないかと思います。
 でも、木作さんが調査をしていると、例えば避難者受入をしていない周辺の福祉施設には余裕があったり、業務量が増えて困っている高齢者施設の向かいの保育所は地震で休園になっていたということもあったりしたそうです。そういうところから機動的に応援を派遣するなど、地域全体で支える体制を考えた方がいいのではないかと木作さんはおっしゃっていました。

 
 あと今回のカフェで教えていただいたことは、2021年の災害対策基本法改正で、各市町村が指定福祉避難所というのを決めておいて、お年寄りや障害者の被災者の方が、そこへ直接避難する体制を作っていこうという方向性が決まったということです。
 いまはいったん指定避難所に避難して、そこで保健師さんたちとの面談して、必要があれば福祉避難所に移動するという仕組みになっていまして、それだと時間がかかりますよね。そして中には、近くに高齢者施設があるのに、いったんは遠くの指定避難所までいってから福祉避難所に移るというケースもあり、それならば、あらかじめ指定しておいた福祉避難所に直接避難できるようにしようという考え方です。
 これは確かにいいことなのですが、木作さんたち専門家から見ると、それで万事解決とはいかないということです。
 いま多くの市町村が福祉避難所の指定先として想定しているのは高齢者施設なのだそうです。ところが福祉避難所に入った方がいい人はお年寄りだけではなく、身体や精神に障害のある方もいるわけです。そういう人が対象から漏れてしまうことにならないか心配があります。

  
 また、例えば地域の人たちとつながりが十分ある在宅のお年寄りなどは、むしろ知り合いがたくさんいる指定避難所のほうが暮らしやすいかもしれませんし、近くの親戚の家に避難したほうがいいという方もいるかもしれません。
 現在、各市町村では「避難行動要支援者名簿」をもとに、指定福祉避難所への避難を考えようという方向になっているそうですが、一律に名簿を適用したりすることなく、それぞれの人にあった避難を考えることが、より必要になってきているということを強く感じるカフェでした。
 また、福祉避難所から再びその方が地域に戻ってからの暮らしなどにもしっかり配慮していくことが、今後は必要だと木作さんはおっしゃっていました。まだまだ解決しなければいけない課題はたくさんありそうです。
 今回も会場とオンラインあわせて128人の方にご参加いただきました。木作さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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