第131回げんさいカフェ in ぼうさいこくたい(ハイブリッド)を開催。参加者が1万人を超えました!

みんながやる気になるための減災コミュニケーション

ゲスト:阪本 真由美 さん
   (兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
日時:2022年10月22日(土)17:00~18:00 
場所:国際協力機構関西センター(JICA関西)4Fセミナー室41・オンライン

企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。
世界でただ一つ、防災・減災だけをテーマに10年以上も続くサイエンス・カフェです。
2011年6月より毎月開催しておりますが、この度、第131回で参加者が1万人を超えました。ご参加の皆様、どうもありがとうございます。
今後とも引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 げんさいカフェは、いつも名古屋大学の減災連携研究センター(減災館)で開催していますが、今回のカフェは、全国の防災関係者が集まる年1回の祭典「ぼうさいこくたい」の会場、神戸市で開きました。いつもと違う場所、いつもと違う土曜日の夕方という時間に開きましたので、ちょっと新鮮な感じがいたしました。
 神戸市で開催ということで、減災連携研究センターの客員教授で、地元兵庫県立大学の阪本真由美さんに、ゲストに来ていただきました。防災教育や減災コミュニケーションの研究をされています。
 カフェでは、これまでの災害でも指摘されている「避難指示が出ても逃げない人が多い」という問題が話題にあがりました。阪本さんの研究テーマの一つです。
 広島市が2018年の西日本豪雨で被災した860人の方に、あなたが避難した「きっかけ」を教えてくださいと調査したところ、
 1位が、雨の降り方などで身の危険を感じたから(約60%)
 2位が、大雨特別警報が出たから
 3位が、市から避難指示が出たから
の順だったそうです。
 ところが、同じ人に実際に避難した「決めて」は?と聞いてみると
 1位は、やはり同じ雨の降り方などで身の危険を感じたから、だったんですが、
 2位は、家族に避難を勧められたから
 3位は、近所の人や消防団に避難を勧められたから
ということだったそうです。
 大雨特別警報や避難指示が決めてとなったという人は6位と7位、割合からしても数%に過ぎませんでした。つまり行政とかテレビのいうことより、まわりからの声かけのほうが効果的だということですね。阪本さんは、この避難の「きっかけ」と「決めて」が違うということに着目して調査をされたそうです。
 西日本豪雨の被災地の倉敷市真備町の方に、横軸に時間、縦軸に実際にやった避難行動(避難完了すると100%)のグラフの紙を渡して、どの時点で、何が避難を考えるきっかけになったのか、そして何をきめてに実際の避難行動をとったのか、自分で書き入れてもらうという調査をやったということです。これは避難行動カーブ(E-Act Curve)という調査手法なんだそうですが、それをやると主に3つのパターンがあったそうです。
 ・ある人は、避難を考え始めてからいろんな情報を集めて(長い人は5時間くらい)考えてから避難した。
 ・またある人は、情報が来てからすぐに避難した。
 ・そして避難をまったく考えずに、寝ているベッドに水が押し寄せてきてから避難した、そんな人もいました。
 多くの方に共通するのは、避難を迷っている間必死に情報を集めている(学問的にはこのことをMillingと言うそうです)ということなのですが、同じ情報を受けても、人によって反応がまったく違うということも、この調査で改めて裏付けられました。
 ただ、この調査では、21人中3分の1にあたる7人が、この時川沿いのアルミ工場で起きたドカンという爆発音をきっかけに避難を始めていたことがわかったそうです。避難勧告や避難指示などの科学技術的な情報より、「何かがいつもと違う」という感覚が避難の決めてになりやすいのかもしれません。
 またこの時、防災無線で倉敷市の市長自らがマイクを持って3回も避難を呼びかけていたので、そのことに「いつもと違う」という感じを受け、逃げる決めてになったという方もいたそうです。
 避難してもらうためには、住民に「いつもと違うかも」と感じてもらうことが大事なのかもしれません。参考になります。

 もう一つ、2019年の東日本台風で千曲川が氾濫した長野県須坂市での調査では、世代間のギャップというのも浮き彫りになったそうです。
 若い世代は避難指示の情報を受け取る率も、実際に危機感を感じて避難する割合も高かったのに比べ70歳以上の方は情報を受け取っている率が低く、さらに危機感を感じた人が少なく半数以下だったということです。
 これに対して阪本さんは、普段からの行動パターンが影響していると分析しています。
 確かに若者はいつもスマホなどで情報を検索しているのに比べ、年配の人は、情報源がそれほど多くありません。テレビ・ラジオや新聞が主な情報源である人が多いと思います。このことが、災害時にも影響しているのではないか、と阪本さんは話していました。

 とすると、年配の人たちにもしっかり逃げていただくためには、こういった世代間ギャップを意識して、地域住民と行政で備えておかなければなりませんが、残念ながら、実際にはそのことを“平時に”考える機会がほとんどありません。
 そこで阪本さんは倉敷市真備町の人たちと避難を考える防災研修会を開いたそうです。
 集まった皆さんたちは、被災の経験はあるけれども、その経験を話し合う機会がそれまでなかったんですね。ということで、みんなに次に大雨が降ったらどう避難するかということを話し合ってもらったそうですが、こういう集会をやってみると「自分の行く避難所が遠いので、隣の学区のほうが近かった」とか「この避難所には行こうとしてもいけないよね」ということがわかったりします。また実際に、みんなで街歩きをしてみることで、川の水位計がある場所を知っている人がみんなに教えることができたりしたそうです。
 さらにはこうした集会を通じて、地域には耳の遠い方がいる、とか、オストメイトで普通のトイレでは排泄に問題のある方がいる、とお互いのことを知る機会にもなったそうです。

 阪本さんはこうしたこれまでの研究をもとに「防災・減災のコミュニケーションというのは、一方的な情報伝達ではなくて双方向コミュニケーションが必要」「専門家や行政がこうしなさいという『正解』を伝えるのではなく、当事者みんなで考えて、お互いの違いも理解した上で『成解』にたどりつくプロセスが大切」と話していました。
 この『成解』という言葉は、防災の世界で“言葉の天才”とも称されている(笑)京都大学防災研究所の矢守克也教授が作られた言葉だそうですが、確かに、上から目線の情報伝達ではなく、みんなで『成解』を得るプロセス、これが「みんながやる気になる防災コミュニケーション」なんだなということを学んだカフェでした。

 遠い神戸での開催でしたが、会場には34人の方に来ていただき、会場が狭かったために立見になってしまうような状況で、サイエンス・カフェらしい活発な質疑応答ができました。オンラインでも約100人の方に参加いただきました。
 阪本さん、参加者の皆さんありがとうございました。

 
 
 
  


→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら


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