第122回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

阪神淡路大震災から27年 建物耐震化のパラダイムシフトを!

ゲスト:地震工学者 福和 伸夫 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)
日時:2022年 1月17日(月)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ホール・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)


 今回のカフェは、阪神淡路大震災からちょうど27年目にあたる1月17日に開かれました。あの日から27年、耐震工学がご専門の福和さんは「そろそろ耐震化のパラダイムシフトが必要だ」とおっしゃいます。
 阪神淡路大震災では、早朝の時間帯だったこともあって、死者のおよそ8割が、自宅の倒壊によって亡くなったことがわかっています。
 そして多くの犠牲者が旧耐震基準=新耐震基準が全国的に施行された昭和56年(1981年)より前の基準=で建った家にそのまま住んでいた方でした。
 そこでその後の耐震化の考え方は、できるだけ早く、住宅を新しい耐震基準と同等の安全性に改修していこうということが中心になりました。
 その結果、ようやくいま全国の住宅の90%弱が新耐震のものになったと推計されていますが、一方で、あの日、犠牲者があまり多くなかった、オフィスビルや飲食店のビルなど住宅以外の建物は、その耐震化の大きな流れからは外れてしまったということです。
 早朝の時間帯だったので、オフィス街も飲み屋街も建物の中に人が少なかったんですね。

 今回のカフェで福和さんは、住宅の耐震化については、行政が耐震診断に補助をしたり、耐震改修に助成金を出したりしているが、それ以外の建物をどうするか、十分な施策が行われていないと指摘しています。
 実は、住宅以外の建物でも、病院、デパートなどの不特定多数の人が出入りする大規模な建物や防災拠点については、耐震診断結果の公表が義務化され、補助もあるので、ずいぶんこちらの方は進んでいます。しかし、それ以外の建物は、耐震診断さえ行われていない建物がかなり残っていると考えられます。しかしその実態はよくわかりません。
 ただ、耐震改修促進法で、大災害時に通行を確保しないといけない重要な通りの沿道の建物は、耐震化が求められて、耐震診断の結果が公表されています。
 そこで福和さんは、それを調べて、住宅以外の建物の耐震化の実態を知ろうと調査を始めました。
 そして東京、大阪、名古屋などの通りを中心に調べた結果、銀座通りがある東京都中央区は244棟中耐震的だったのは114棟、合格率は46%という結果、名古屋は358棟中79棟で合格率は22%、大阪は290棟中86棟で合格率30%とさんざんだったということです。
 一見華やかに見える大通りでも、今の耐震基準に照らして大丈夫という建物は2割から5割程度であることがわかったのです。
 一番お金をかけているはずのメインストリートでさえそうなのですから、ちょっと裏通りに入った、耐震診断結果が公表されない普通のビルの耐震性は推して知るべしということになります。


 普通の民間の雑居ビルだと、入居しているテナントさんのことも考えないといけないし、なかなか工事に踏み切れないオーナーさんも多いでしょう。耐震改修に補助金も出ない、法律上の義務もないということであれば、改修工事になかなか踏み切れないのが現実だと思われます。
 次の直下型地震がいつどの都市を襲うのかわかりませんが、発生時刻が、多くの人が会社や飲食店などお店にいる時間帯だったら、耐震性の遅れによって、たくさんの犠牲者が出るかもしれないと心配されます。そういう意味で、これまで住宅中心に考え過ぎていた耐震化の方向性を変えて行くことが大切です。
 そしてもう一つ、今回のカフェで福和さんがパラダイムシフトが必要と指摘したのは、いまの耐震基準の考え方そのものに対してです。
 いまの耐震基準というのは、あくまで最低基準。地震が来ても、中にいる人が生きながらえるということを求めていて、ある程度建物が壊れることは許容するという考え方なのだそうです。計算の仕方も、地盤の違い、つまり揺れやすさの違いがあまり考慮されていないということや、建物の平均的な揺れに対して安全性を検証しているので、本当の意味で地震後に人々が「命」と「生活」が両方守られるという基準にはなっていないと、福和さんは指摘しています。
 例えば、阪神淡路大震災でも、建物の高さが高いと新耐震基準を満たしていても被害率が大きかったんです。これは今の耐震基準の考え方の限界を示していると言えるということです。


 地震国日本に住んでいる以上、私たちは、いつ直下地震に遭遇するかわからないわけですが、それまでに、まず住宅の耐震化を100%にできるだけ近づけておくこと、そしてこれまで少し対策の中心から外れていた「住宅以外の建物やビルの耐震化」も急がないといけない。そしてそれは民間の力だけでは難しいでしょうから、行政も思い切った補助などを考えてほしいと思います。
 さらに耐震基準をもっと最新の科学を取り入れた、より良いものに改善していかないといけない。そうしないと27年前の阪神淡路の教訓が生かされないかったということになりかねない。そういうことを考えさせるカフェでした。
 
 今回は初のハイブリッド開催ということで、感染対策に配慮しながら、会場の参加者とオンラインの参加者と、ゲストとの間での対話を試みました。途中、少々音声トラブルはありましたがなんとかうまく行ったようで、あわせて270人を超える方に参加いただきました。
 福和さん、参加者のみなさんありがとうございました。

※詳しいことをもっと知りたい方は、ヤフーニュースの【こちらのページ】をごらんください。

 

 

cafe122
→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

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