第120回げんさいカフェ(オンライン)を開催しました

国土強靱化は「景気」のためか?

ゲスト:経済学者 山﨑 雅人 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター地域社会減災計画(応用地質)寄附研究部門特任准教授)
日時:2021年 11月29日(月)18:00~19:30
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)


 世の中が不景気になると、すぐに景気対策と称していろんな公共事業を行うというのが政府のよくあるパターンです。
 しかしそれが本当に有効な税金の使い方なのか?防災・減災の立場でみるとどうなのか?減災連携研究センターの研究者の中で、唯一人の経済学者である山﨑さんにゲストで来ていただき、伺ってみました。

 山﨑さんの答えは「公共事業にはそれぞれ本来の目的がある。インフラ整備や教育、医療、防衛、生活困窮者への支援など、民間ではできない事業を国家が国民のためにすること。本来の目的を軽視して景気対策に使うなんてもっての外」なのだそうです。
 だから景気対策としての公共事業に批判的です。
 例えば、公共事業で100億円支出すると、それがそのままGDPに計上されますが、同じ100億円を、失業給付金のような形で政府が支出するとルール上GDPにカウントされません。
 だから公共事業のほうが経済対策として即効性があるような感じがするのですが、経済に与えるインパクトは全く同じ。
 公共事業は後に何かモノが残るかもしれませんが、それを社会が必要としていなければ国民の豊かさは向上しません。
 さらに山﨑さんは「景気が良くならない本当の理由」をよく考える必要があると言います。

 例えば、老後の生活資金が不安で、国民が買い物をせず、貯金ばかりすることが不景気の本当の理由ならば、今いくら公共事業をしても景気の回復にはつながりません。やるべきことは社会保障制度の改善となります。現代の不況は昔の大恐慌とは違うと山﨑さんは言います。

 山﨑さんに言わせると、大切なのは公共事業の中身が社会の理念に沿っているということ。まさに「国家百年の計」に基づいて行われるべきで、特に防災・減災対策、国土強靭化に関しては、本来必要なところに計画的に税金をつぎ込むべきと言います。
 景気対策として公共事業をしようとすると、どうしても予算規模が先に決まってしまい、どんなものをどこに作るかということが「後まわし」になってしまいがち。
 それよりも、防災・減災のために必要な工事を、長い目で見て計画し、それに適切に予算をつけていくプロセスが大事だということです。

 一方、山﨑さんの考える防災・減災のためのあるべき対策は何ですか?と聞いてみると、「災害リスクの高い土地に住まないようにすること」という大胆なお答えが返ってきました。
 名古屋市には海抜ゼロメートル地帯にお住いのかたもたくさんいらっしゃいますが、いくら災害リスクが高いからといって、移住の決断をするのは極めて難しいことです。故郷への愛着、移住費用、移住先での生業の確保など、実現にむけての課題が山積しています。山﨑さんも東日本大震災の現場の調査などで、その難しさを実感したということですが、でも丁寧な説明と、調整、経済的インセンティブをつけるなどの政策誘導などで、長い時間がかかっても、なんとかそれを実現していかないといけないと言います。
 思えば、家康が命じたといわれるかつての清洲越し(清州城から名古屋城への城下町全体の移転)も、災害リスクを避ける目的もあったといわれています。ゆかりの地である名古屋で、それを令和の時代に実現してもいいのかもしれません。
 まさに防災のための公共事業は、こういう「国家百年の計」で進めていくべきことなのですね。

 今回100人を超える方に参加していただきました。山﨑さん、参加者の皆さんありがとうございました。

cafe120
→ポスター(PDF)

→過去のげんさいカフェの様子はこちら

This entry was posted in お知らせ, げんさいカフェ, 最新情報. Bookmark the permalink. Both comments and trackbacks are currently closed.