オープンキャンパス連携特別企画 第99回げんさいカフェを開催しました

オープンキャンパス連携特別企画 ⾼校⽣のためのげんさいカフェ
名古屋⼤学にようこそ︕ まずは減災館へ︕

げんさいカフェ「2018年西日本豪雨 アルミ工場の爆発事故と住民避難」

ゲスト:地域防災学者 荒木 裕子さん
   (名古屋大学減災連携研究センター特任准教授)

日時:2019年8月9日(金)13:30~15:00
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 去年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では、全国で200人を超える犠牲者が出て、我が国の豪雨対策のあり方を改めて考えさせられました。
 そんな中、全国的にはあまり大きくは報じられませんでしたが、貴重な教訓があったのが、岡山県総社市のアルミ工場が爆発した事故でした。
 今回のカフェでは、現地での詳しい調査をされた地域防災学者の荒木さんに、お話を聞きました。

 このアルミ工場の爆発は「自然災害によって引き起こされる産業事故」(専門的にはNatechと名付けられているそうです)の1つでした。大雨で増水した川から溢れた水が、川の近くに建っていた工場内の敷地内に入り、溶けたアルミと水が接触することによって大爆発が起きたということです。
 東日本大震災の津波による津波火災や福島第一原発事故も、同じNatech「自然災害によって引き起こされる産業事故」に分類されるそうで、この種の災害への事前の対策などについてはまだまだ新しい分野だということです。

 現地調査の結果、今回のアルミ工場爆発の規模は大きく、爆風や飛来物によって870メートル離れた住宅の窓ガラスや、650メートル離れたコンビニのドアのガラスが割れるなど、被害は広範囲に広がっていました。まだ飛び散った溶けたアルミ塊などによって、周辺に少なくとも4件で住宅などの火災が引き起こされていました。この爆発によって亡くなられた方はいませんでしたが,住民の方が20名ほど重軽傷を負いました。

 荒木さんによると、この事故からは、いろいろと学ぶべきことがあるということです。
 例えば、工場の従業員は、大量の溶けたアルミと水が接触すると爆発する危険性があることを知っていたため、雨がひどくなった7月6日の午前から溶融炉を止める作業に入り、午後6時頃からは溶けたアルミの取り出し作業をしていました。しかしその頃には工場への浸水が始まってしまっており、結局、作業途中の午後10時頃に従業員全員が避難したということです。
 ところが周辺の住民は、溶けたアルミニウムが水と接触すると爆発することも、工場の従業員が作業途中で避難してしまったことも、全く知りませんでした。もし、爆発がもっと大規模なものであれば、死者が出てもおかしくない状況であったのです。
 その施設が、自然災害に対して事故を起こすような危険性を持っているか、周辺住民や自治体にどの程度周知されているべきか、今後考えておくべき課題です。
 また今回爆発による被害が出た範囲は、市の境を超えて隣接する倉敷市にも及んでいましたが、浸水による住宅などの孤立も多く対応しきれない面もありました。
 産業事故の危険性については、周辺の自治体との間にも事前に情報共有しておく必要性がありそうです。

 荒木さんたちの調査では、災害への備えという点で、良いことも見つかりました。地元の「下原・砂古地区」の自主防災組織が、工場爆発後しっかりと機能して、スムーズな避難が実現していたのです。避難時に周りの援助が必要な高齢者(要配慮者)などを含め、市の避難所まで車での移送がうまくいきました。
 地元の自主防災組織では、東日本大震災を機に、2013年から3年計画で水害や地震に備えた避難訓練をしてきたそうで、2016年には夜間の避難訓練まで実施していました。それが今回の夜間の速やかな避難につながったそうです。
 この自主防災組織では構内総代と呼ばれている7つの班の班長さんを中心に、福祉関係者と連携して、避難時の要配慮者を把握していたということで、そうした備えが功を奏したということです。

 今回のカフェは名古屋大学のオープンキャンパスに合わせて実施したので、名古屋大学の受験を考えているという高校生も参加してくれました。大学っていうところは、荒木さんたち減災連携研究センターの研究者のように、人々の生命とくらしを守るための多様な研究が日々行われている場所だっていうことがわかってもらえたでしょうか。荒木さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


→ポスター(PDF)

※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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