地震の揺れで盛土はどうなる?
ゲスト:地盤工学者 野田 利弘さん
(名古屋大学減災連携研究センター副センター長・教授)
日時:2019年3月4日(月)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
これまでのげんさいカフェで、建物には固有周期というものがあり、その周期に近い地震動がやってくると揺れやすいということを学びました。例えば高層ビルは固有周期が長くて、ゆらゆらした地震の揺れで揺れやすく、逆に低い建物は固有周期が短くて、ガタガタという揺れで揺れやすいということでしたね。
そして建物の固有周期に近い地震動が続くと“共振”現象が起きて、建物の揺れがだんだん増幅されることもあるということも覚えています。
でも今回のカフェで、土木工学の専門家の野田さんから話を聞き、驚かされたのは、盛土にも同じように揺れやすい固有周期があり、地震の揺れの周期によって被害が大きくなったり小さくなったりするのだということです。
それを実験で確かめる最新研究について今回詳しくお話をいただきました。
実験は、長さ1.6m、幅45cm、高さ40cmの盛土の斜面の模型を、大きな槽の中に作り、全体をガタガタと揺らすという方法で行われているそうです。盛土の斜面には、揺れの強さを測る加速度計や、地下水の水圧を測る水圧計などのセンサーが埋め込まれていて、盛土が崩れるまでの挙動がしっかり記録されます。
この盛土斜面の模型の固有振動数は50Hz(1秒間に50回行ったり来たりすること)くらいだということですが、それと同じ50Hzの揺れを少しずつ強くしながら揺らしていくと、揺れは共振現象で増幅され、揺れの加速度(強さ)が400gal付近で盛土は崩れてしまいました。
ところが同じ盛土斜面を、もっとゆっくりした20Hzくらいの揺れで揺らすと、あまり揺れは増幅されず、揺れの加速度を550galくらいまで強くしてもなかなか壊れませんでした。最終的にはこの盛土も壊れてしまいましたが、その理由としては、最初締め固めてあった盛土が揺すられているうちに次第に柔らかくなり、固有振動数が延びて20Hzに近づいたため共振するようになったと考えられるそうです。
逆にもっと周期の短い80Hzの揺れでは、750galまで揺れの加速度を強くしても盛土は壊れず「地震の揺れの周期によって盛土の被害に大きな差が出る」ことが実験的に確かめられたということです。
ちょうど8年前の東日本大震災では、津波の大きな被害に隠れてあまり報じられませんでしたが、各地で、盛土の崩壊による住宅被害等が起きていたのだそうです。特に宅地開発に対して法律の規制が行われるより前の、比較的古い時期に開発された大規模造成宅地に被害が集中していたということです。
国は、こうした苦い経験や、それより前の阪神淡路大震災、新潟県中越地震などでの盛土被害を教訓に、いま全国の自治体に広さ3000㎡以上の谷埋め型盛土など大規模盛土造成地がどこにあるか確かめ、ホームページなどで公表することを求めています。しかし去年(2018年)11月現在で、マップを公表し終えたのは全体の3分の2にあたる1148市町村だけ。残りの593市町村がいまだに公表ができてないのが現実です。
会場のみなさんからは、自分の家が盛土の上にあるのかそうでないのかを確かめておきたいがどうすればいいかという質問が出て、野田さんは「明治時代の地図や古い地形図などを見て、自分の家がその頃の谷筋にあたるのか尾根筋にあたるのかを確かめてください。古い地図や地形図はインターネットなどで公開されています」と答えていました。
参加者のみなさん、野田さん、どうもありがとうございました。
【げんさいカフェのファシリテータについて】
げんさいカフェのファシリテータは、NHK時代に科学報道に長く関わられた、サイエンスコミュニケーションの専門家である隈本邦彦氏(江戸川大学教授/減災連携研究センター客員教授)にお願いしております。毎回のカフェのゲストである各分野の専門家から、市民目線で科学的知見を聞き出し、分かり易い言葉で参加者に伝える事で、従来にない防災教育・啓発の実践が可能になります。