第90回げんさいカフェを開催しました

最近の豪雨災害・地震災害から考えるハザードマップ活用の課題

ゲスト:地盤防災学者 利藤 房男 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター地域社会防災計画寄附研究部門教授)

日時:2018年11月14日(水)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 西日本豪雨や北海道胆振東部の地震など、今年も自然災害が多発していますが、今回のカフェでは、ハザードマップが減災にどのように役立っているかということをテーマにしてみました。

 西日本豪雨の被災地で詳しい調査をしてこられた利藤さんによると、多くの犠牲者が出た岡山県倉敷市真備町では、事前に公表されていたハザードマップの浸水予想範囲と実際の浸水範囲とが、ほぼ一致していたということです。
 では今回のような水害が起きることが、事前にぴったりと予測されていたのかというと、実はそうではないのだそうです。
 倉敷市が作ったこのハザードマップは、主要河川の高梁川、小田川だけでなく、倉敷川など周辺のあわせて5つの河川の流域に、それぞれ30年から150年に一度の大雨が降った場合に想定される結果を、すべて地図上に重ね合わせた”リスク合算型“のハザードマップだったからです。実際には、そんな水害が同時に起きることはめったにありません。その意味で、今回の西日本豪雨は「想定していた5つのリスクを合算した程度以上の出来事」が現実に起きてしまった、ということになります。
 利藤さんは、このことを教訓にしてほしいとおっしゃいます。今回のように気象庁から「特別警報」が出されるなど、まさに“最大規模の豪雨”が予想される時には、“リスク合算型”ハザードマップそのままの浸水が現実に起きると考えて、避難場所の確認や早めの避難行動をとってほしいということです。
 そしてハザードマップの各戸配布だけでは人的被害が防げなかったことも今回の教訓として、ハザードマップのさらなる周知徹底や、中小河川の河川改修などハード面での対策も急ぐ必要があるということでした。

 さて熊本地震の前に熊本市が作っていた液状化ハザードマップもやはり“リスク合算型”でした。近くの2つの活断層が動いた場合と、熊本市直下に未知の活断層があった場合のすべての計算結果を、地図上に重ねあわせています。結果として、熊本市内の平野部はほぼ「液状化危険度が極めて高い」というピンクか赤の範囲に入ってしまっていたのです。
 ところが現地の調査をした利藤さんによると、実際に液状化が起きた場所は、そのうちのほんの一部に過ぎませんでした。そういう意味で、このハザードマップはその地域でいちばん液状化が起きやすい場所を適切に指摘するものにはなっていなかったということです。
 液状化のハザードマップは、その場所の地盤調査の結果と土粒子の粒の揃い方から計算するそうなのですが、そうしたデータの少ないところでは精度が十分とはいえません、ましてや想定地震をすべて重ね合わせる“リスク合算型”では「現実に起きることを的確に予測できるレベル」には達していないということなのでしょう。
 確かに名古屋市の液状化ハザードマップも左半分(西半分)が真っ赤です。まあ、私たちとしては、地盤が比較的悪くて地下水位の高いところならどこでも液状化が起こりうると考えて備えるしかないということですね。

 最後に利藤さんが紹介してくれたのが、ハザードマップではありませんが、いま全国的に作成・公表が進んでいる「大規模盛土造成地マップ」についてです。
 宅地造成をする場合、切土部分にくらべ盛土部分が地震に弱いことがはっきりとわかっています。東日本大震災でも、盛土上の住宅の被害率は、切土の2倍以上でした。そこで国はいま全国の自治体に3000平方メートル以上の大規模な谷埋め型盛土などをマップ上に公表し、対策を促進するよう求めています。
 北海道胆振東部の地震でも、震源から離れた北広島市で、川沿いに造成された盛土の上の住宅が多数全壊する被害が出ました。利藤さんは現地の詳しい調査結果を紹介したうえで、「愛知県でもすでに81.5%が公表されているので、自宅が大規模盛土の上にあるかどうかぜひチェックしてほしい」と話していました。
 ただし、こうやって大規模盛土の存在がわかっても、これからどう対策をとるか、その財源をどうするかなど、課題はまだまだ山積しているそうです。

 しかしまずは自分の住んでいる地域の具体的な危険を知ることが大切。カフェの参加者の皆さんも、まずは家のタンスの引き出しにしまってある(笑)ハザードマップをもう一度見てみようという気持ちになったのではないでしょうか。
 利藤さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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