第89回げんさいカフェを開催しました

西日本豪雨に学ぶ減災・防災と国土づくり

ゲスト:国土デザイン学者 中村 晋一郎 さん
   (名古屋大学大学院工学研究科 土木工学専攻講師 減災連携研究センター兼任)

日時:2018年10月15日(月)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 今年7月の西日本豪雨は、死者行方不明者232人(10月9日現在)に上る大災害となりました。日本列島を合計8個の台風が襲い大規模水害が立て続けに起きた2004年には、年間で230人余の死者行方不明者が出ましたが、今回の西日本豪雨は一度の水害でそれに匹敵する被害が出てしまいました。
 この災害の経験からなんとか教訓を導き出すことができないか、現場での詳細な調査を行った学者チームの1人、中村さんに教えていただきました。

 中村さんは、まだ自分もそのすべてに答えを持っているわけではないが、と前置きしながら、カフェの参加者の皆さんに今回の豪雨災害を考えるための7つの視点(質問)を提示してくださいました。
その1 広域(気象)災害をどのように想定するか?
その2 水害リスクをどのように認知してもらうか?
その3 流域内のボトルネックをどう再評価するか?
その4 災害常襲地の土地利用を如何に最適化するか?
その5 経験が通用しない水害をどのように考慮するか?
その6 災害リスク軽減のためにインフラを如何に維持管理するか?
その7 人口減少・高齢化地域をどのように復興するか?

 なかでもその3と4に関わる重要な調査結果が、岡山県倉敷市真備町と、愛媛県大洲市の被害の比較。それぞれの地区は、高梁川、肱川という大きな川と支流とが合流する箇所で、しかも川の途中で地形的に狭くなっている、いわゆるボトルネック地形の上流側にあって、水害の常襲地帯となっているところです。今回の西日本豪雨で両地区とも川からあふれて広がった水の量は1400万㎥前後で、ほぼ同じくらいと推計されています。
 しかし中村さんたちの詳しい調査では、両地区の被害の様相に大きな違いが出ました。浸水した家屋の床面積は、真備町の98万㎡に対して、大洲市中心部では約半分の49万㎡にとどまっていたというのです。
 なぜ家の浸水被害にこれほどの差が出たのか、それが土地利用の違いではないかと中村さんたちはみています。
 真備町では、明治以降水害が繰り返し起きており、特に明治26年(1893年)の水害では今回と同じくらいの範囲が浸水しましたが、当時、被災地付近は一面の田んぼばかりだったため、住宅への被害はあまりありませんでした。ところが20年ほど前にこの地区に鉄道が通り、駅ができたことで、たくさんの人が住むようになりました。この地域の最後に大きな水害が襲ったのは1976年で、それ以降40年以上それほど大きな水害が起きていなかったため、最近住み始めた新住民の中にはここが水害常襲地帯であるということを知らなかった人もいたようです。それが逃げ遅れにつながった可能性もあります。
 一方、大洲市の中心部では、いまも浸水が予想される地域には田んぼが多く、住宅が少ないため、被害が真備町の半分にとどまったとみられるということです。大洲市中心部で人的被害がずっと少なかったのもそうした「土地利用」の違いのあらわれと考えることができます。

 また今回の西日本豪雨では、洪水ハザードマップで予想された通りの浸水範囲であったのに、その事前の警告が地域住民に十分伝わっていなかったことや、各地でため池の被害が心配されているのに、ため池の維持・管理をしている人たちが高齢化して十分機能しなくなっている問題など、これまでの水害でたびたび指摘されてきた問題も、起きていたそうです。
 人口減少・高齢化が進む中で、水害に強い国土づくりをどうしていくか、まだまだ考えなければいけない問題がたくさんありそうです。

 参加者の皆さんからは、土地利用を最適化するため水害が来そうな場所の住民に立ち退いてもらうようなことは可能なのか、とか、ため池の管理を行政が代わってすることはできないのかなどのたくさんの質問が出て、議論が盛り上がりました。規模の大きなため池については行政による管理も一部では始まっているということでした。

 中村さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。



→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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