第86回げんさいカフェを開催しました

被災地での入浴困難を考える

ゲスト:ライフライン研究者 北川 夏樹 さん
   (名古屋大学減災連携研究センターライフライン地盤防災産学協同研究部門助教)

日時:2018年7月9日(月)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 「日本人は世界一のお風呂好き」とよく言われますが、そのお風呂大好き日本人が、地震や水害で避難生活を送ることになると必ず直面するのが入浴困難問題です。真夏の体育館で避難生活を送ることになった自分が、いったい何日間、風呂に入らずに耐えられるだろうと考えてみると、問題の深刻さが想像できますね。でも災害の発生前からこの問題について真剣に研究している研究者がいることを、今回のカフェのゲスト北川さんから初めて教えていただきました。防災・減災の研究はまだまだ奥深いですね。我が身の勉強不足を反省させられます。

 カフェの冒頭で北川さんは2018年6月の大阪府北部の地震や2017年九州北部豪雨での入浴支援の具体例を示してくれました。
 被災地の周辺で営業可能な銭湯が避難住民を無料招待したり、避難所の横に自衛隊が臨時の入浴施設を開設したりして、なんとか入浴の機会を確保しようという試みが行われたということです。
 九州北部豪雨で活躍した自衛隊の装備の通称は「火の国の湯」。当時の写真を見ると、この通称が染め抜かれたしゃれた暖簾がかかっていました。10トン入りの巨大な水タンク数個と、ボイラー・発電機などとのセットで、急いで入れば最大で1時間120人の入浴が可能だということです。
 このほか大阪府北部の地震では、近くの大学の運動部のシャワーが被災者に開放された事例や、今回の西日本の豪雨でも海上自衛隊呉基地に停泊中の輸送船の入浴施設が被災者に開放された事例などもあり、各地でいろんなアイデアを生かした入浴支援が行われていることがわかりました。

 とはいえ、このような自衛隊の入浴支援装備の数は限られており、例えば心配されている南海トラフ巨大地震では広域での断水や停電が予想されていますから、被災地周辺の施設や銭湯の臨時営業による入浴支援がほんとうに可能かどうか疑問です。いざ巨大地震が起きた時には、どれくらいの入浴困難者が出て、それに対応するにはどれくらいの入浴支援が必要か、あらかじめ計画を立てておくことが「災害への備え」として重要になります。
 この問題に取り組んでいるのが北川さんたちライフラインの研究者。北川さんたちは、まず熊本地震の被災者に対するアンケートをもとに、実際に自宅で入浴できなくなった人がどれくらいいたか、それが解消されるまでどのような手段で入浴手段を確保したか、その入浴のためにどれくらいの待ち時間があったか、そこまでの移動時間はどれくらいかかったかなどを詳細に調べました。
 そしてその結果をもとに、北川さんは人口38万人の愛知県岡崎市が南海トラフ巨大地震に遭遇したという想定でケーススタディを行ないました。
 まず入浴困難者数はどれくらい出るか。被害想定などから計算をすると、発災後1週間目で約5万6000人の入浴困難者が出ると推定されました。では、その人たちに、3日に1回、歩いて30分以内の場所で、待ち時間60分以内でという条件で入浴してもらうためには、市内70の指定避難場所のうち何か所に入浴支援設備を確保しないといけないかを計算してみると、「40か所必要」という結果になったそうです。発災後2週間目(2日に1回、入浴できるように整備した場合)でも「35か所」1か月目(毎日入浴でき、待ち時間が40分以内に短縮された場合)でも「41か所」が必要ということがわかりました。

 避難住民の健康を守るためには、岡崎市だけでも約40か所もの入浴支援が必要という結果には、驚かされました。南海トラフ巨大地震では、全国でどれほどの支援が必要となるのか、考えるだけで途方もない数になりそうです。当然、自衛隊の持っている装備だけではとてもとても足りません。既存の施設を利活用するなど、アイデアが必要となりそうです。カフェでは北川さんが参加者の皆さんにも「新しいアイデアがあったら提案してください」と呼びかけました。

 参加者の皆さんからは「名古屋市内でも廃材をボイラーで燃やしているお風呂屋さんがあるので補助金を出してそんなお風呂屋さんを増やすべき」とか「お年寄りのデイサービスの施設に水を運んで入浴させてもらう」「生活用水として井戸水の活用を」などのいろんな案が出されました。
 都市ガスが止まっても、病院などの重要施設には一時的にプロパンガスボンベをつないで供給を確保する装置もあるということで、緊急時に備えて、水の確保とともにそうした燃料の確保に関する知識を広めておく必要があると、北川さんは強調していました。

 北川さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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