第67回げんさいカフェを開催しました

「熊本地震での災害廃棄物対応」

ゲスト:災害環境工学者 平山 修久さん
   (名古屋大学減災連携研究センター准教授)

日時:2016年12月14日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

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 平山さんは、日本でも数少ない災害廃棄物問題の専門家。今回は研究の最前線と、熊本地震での対応はどうだったのか、お話しいただきました。

 我が国で、地震による災害廃棄物の問題が最初にクローズアップされたのは、1995年の阪神・淡路大震災の時だったということです。その後、2011年の東日本大震災では主に津波による災害廃棄物が大きな問題になりました。そして熊本地震は、公費解体による災害廃棄物への対応が問われた3番目の事例になるということです。

 “彼を知り己を知れば百戦殆うからず”という言葉がありますが、確かに災害廃棄物対応をする行政の側からすれば、いざ地震が起きた時にどの程度の災害廃棄物が出るかということをあらかじめ知っておけば、対応がスムーズにできそうです。そこで、阪神、東日本などの経験をもとに、どのくらいの災害でどれくらいの災害廃棄物が出るのかという予測計算方法の研究が進められてきました。その結果、地震の場合は、全壊家屋数と災害廃棄物の量との間に比例関係があることがわかってきて、だいたい全壊家屋1軒あたり120トンくらいの廃棄物がでるという計算が成り立つとのことです。

 ただ、全壊家屋数というのは地震直後にすぐわかるわけではありません。熊本地震の場合でも、各市町村の全壊家屋数の把握にずいぶん時間がかかってしまいました。
 例えば熊本市では、地震から2週間くらいまでは全壊家屋ゼロだったのに、その後1か月余りたってから突然1000棟と報告されてきたとか、被害の最も大きかった益城町でも、地震後1月半まではずっと全壊1000棟余りだったのにその後急に4倍に増えた、などのことが起きました。これは地震直後の各市町村の担当者が忙しすぎることや、役場そのものが被災して機能停止したりしたため、被害の確認作業や防災部局への報告が遅れがちになるためとみられます。熊本地震では、災害廃棄物の量を推定しようにも、根拠になる数値がなかなか手に入らないという事態が発生していたということです。

 このような状況を受けて、平山さんたちは、地震発生直後に災害廃棄物の量をすばやく推定できるシステムの開発に取り組んでいらっしゃいます。事前に得られている家屋の分布データとその家屋の耐震性の目安となる建築時期のデータ、それに地震直後に得られるその地震の震度分布のデータを重ね合わせることで、地震発生直後に、おおまかな全壊家屋数を推定し、それをもとに災害廃棄物の発生量を推計するという試みです。現在その推計精度をあげるための研究が進められているそうです。
 将来はこの方法で、地震が起きる前に、あらかじめ想定される地震の災害廃棄物の量を推計して、それを地域防災計画の中に入れておくことも可能になりそうだというお話でした。

 平山さんによると、災害廃棄物への対応の難しさは、一度の地震で大量のがれきなどの廃棄物が発生するのに、それを焼却して体積を減らし、最終処分場に埋め立てるという工程は、普段の(日常的な)ごみ処理のシステムの中でやらないといけないということだそうです。確かに災害廃棄物専用の中間処理場や最終処分場などは存在しませんからね。
 そうした普段のごみ処理システムに乗せるために、災害廃棄物を、収集して、運搬して、分別してやらなければならないわけですが、これがたいへん手間がかかる上に、大量の廃棄物を一時的に置くための仮置き場も必要になります。

 ただ、これほど重要な問題なのに、災害廃棄物の問題はつい後回しにされがちだと、平山さんはいいます。人命救助や避難者への対応など、地震直後の行政にはやることが多すぎる上に、被害家屋の片づけなどは被災後しばらくたってからでいいだろうという認識が役場全体にあるからです。しかし災害の規模が大きければ、避難所からすぐに大量の避難所ごみが発生しますし、下水道が止まっている間の住民のし尿処理などにも対応しなければなりません。被害が軽微な地域からは生活ごみも発生します。廃棄物担当部局もすぐに仕事があるのです。
 人員の少なさも問題です。益城町でも、廃棄物担当の職員はわずか2人。これでは対応が後手後手に回ってしまうのは仕方ないことなのかもしれません。

 平山さんは、阪神・淡路大震災の後の神戸市民へのアンケートで、復興への第一歩が踏み出せたと感じた瞬間というのは、がれきが街の中からなくなった時だったという声があったことを紹介してくれました。そして、もし1995年の神戸の住宅が、いまと同じくらいの耐震性をもっていれば、あの地震での全壊家屋数は4分の1程度まで下がり、そこから推計される災害廃棄物排出量も7割減っていたという試算も示してくださいました。
 南海トラフ巨大地震を迎え撃たなければならない私たちとしては、災害廃棄物の問題にも、しっかりした備えをしていかなればならないことを教えていただきました。
 今回も参加者の皆さんからも活発な質問が出て対話が盛り上がりました。平山さん、参加者の皆さんありがとうございました。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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