第66回げんさいカフェを開催しました

「熊本地震の建物被害」

ゲスト:耐震工学者 長江 拓也さん
(名古屋大学減災連携研究センター准教授)

日時:2016年11月9日(水)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学 カフェフロンテ
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 熊本地震について考えるシリーズの6回目は、建物被害の特徴と問題点について、耐震工学の専門家である長江さんとの対話です。
 長江さんは、阪神・淡路大震災後に兵庫県三木市に作られた、防災科学技術研究所の大型実験施設E-defense(E—ディフェンス)で、長年、建物の耐震性などについての研究をやってこられた方です。

 実は21年前の阪神・淡路大震災では、学校の校舎にも大きな被害が出ました。ただ地震の起きた時間が午前5時46分と児童生徒がいる時間帯ではなかったため、人的な被害はありませんでしたが、この震災をきっかけに、耐震基準を満たしていない学校の校舎が、他にも全国に多数あることが明らかになり問題となりました。
 そこで全国で一斉に学校の校舎の耐震補強工事が行われたわけですが、そこでは、限られた予算で、できるだけ早く、多くの学校の耐震性を十分にしたいという行政目的の達成が優先されました。その結果、各校の耐震補強工事は、とにかく最低基準(IS値0.6)を満たすことを優先して、つぎからつぎへと工事が行われていったのだそうです。
 そのこと自体に問題があるとは言えませんが、結果的に、全国の学校では、耐震性に十分な余裕をもたせてじっくりと補強工事をするということが行われなかったということになります。逆に言えば、いざというとき想定の上限くらいの強い揺れに見舞われると、その校舎はすぐに壊れはじめてしまうということになります。
 長江さんは、大切な子供たちの命を守る学校の校舎だけに、そこは心配だとおっしゃいます。

 熊本地震でも学校の校舎に被害が出ました。建物の大部分が1970年から72年頃に建築されていた熊本県のある高校では、その後耐震補強工事が行われていたにもかかわらず、震度6弱の揺れに見舞われて建物の一部が壊れました。
 長江さんからその校舎の被害の写真を見せていただきましたが、1階と2階の柱に、それぞれ斜めにヒビが入っていて、建物の構造を支える大切な箇所に損傷が起きていることがわかります。しかもこの校舎のコンクリートの強度を調べてみると、場所によっては設計上必要とされている強度の4分の3程度しかないこともわかりました。
 しかしこの校舎は、地震後もそのまま使われていました。長江さんは危機感を感じ、「この校舎は今後強い余震に見舞われたら危険」という趣旨の報告書を提出したということです。
 地震発生直後、被災地では、建物の「応急危険度判定」が行われ、そのまま使い続けていいか、それとも倒壊の危険があるから使用禁止にするか、という判定が専門家によって行われますが、この学校の校舎は、その応急危険度判定では、損傷がそれほど大きくないと見逃されていたことになります。

 長江さんは今回のカフェで、ここに熊本地震の教訓があるのではないかと、おっしゃいました。
 つまり、地震直後に急いで行なう応急危険度判定では、少ない人数で多数の判定を短期間で行なわなければならない関係上、どうしてもこのような見落としが起こりうる。だから自動系のシステムで、損傷の大きい建物をあらかじめ見つけ出しておいて、そこから重点的に丁寧な危険度判定を行うようなしくみが必要なのではないかとおっしゃるのです。
 例えば名古屋大学でも、建物のあちこちに地震計のようなセンサーを設置しておいて、地震前と地震後の波形を分析することで、建物の損傷具合をおおまかに推定できるようなシステムの研究が進められています。こんな新技術が多くの建物に広がれば、地震の後、どの建物を重点的に調べればいいかすぐにわかる時代になるのではと、長江さんは指摘します。

 カフェの最後に長江さんは、建物の耐震性をより高めるためにいま研究中のアイデアも紹介してくださいました。コンクリートの建物の下に、鋳物の鉄板を敷くというもので、ある一定以上の揺れの力が加わると、建物が横に滑って、揺れのダメージを減らしてくれるという効果があるそうです。
 こんな研究が実を結んで、次の南海トラフ巨大地震までには、この地方にももっと安全な街並みが実現するように願うものです。

 今回もたくさんの市民が対話に参加してくださいました。長江さん、参加者のみなさんありがとうございました。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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