第65回げんさいカフェを開催しました

「熊本地震から半年、地盤災害を考える」

ゲスト:地盤工学者 野田 利弘さん
(名古屋大学減災連携研究センター副センター長・教授)

日時:2016年10月17日(月)18:00〜19:30 
場所:名古屋大学減災館 減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 熊本地震から約半年がたちましたが、いまだにその傷跡は癒えず、現在も180人を超える人々が避難生活を送っています。
 この地震では、被災地のあちこちで地盤災害も目立ちました。今回のカフェは、地盤工学の専門家である野田さんに、この地震の被害について伺ってみました。
 
 野田さんによると、今回の熊本地震の地盤災害では、専門家から見て「なるほど、やはりこうなったか」というものが3つ、そして「なぜ、こんなことが起きたのだろう」と思うものが1つあったということです。

 「なるほど、やはりこうなったか」というものの最初の1つが液状化被害。野田さんが調査した熊本市南区近見(ちかみ)の付近では、液状化が起き、道路にそって地下から水と砂が噴き出してきた「噴砂」のあとが見られました。電柱が支えを失って地中に途中まで埋まってしまっている写真や、新しい家が斜めに傾いてしまった写真が印象的でした。ただ、液状化被害が出ている通りから道を1本入ると、そこはまったく無被害。この地域の液状化被害は、南北に帯状の狭い範囲に限定されていたということです。このように「液状化の帯」ができた理由はまだ確定ではありませんが、古い自然堤防にそって起きていることから、おそらくその昔、小川が流れていたところか水が溜りやすいところを埋め立てたため液状化が起きたのではないかということです。そういう場所は地下水位が高く、周囲よりも液状化を起こしやすい条件になっているからです。

 「なるほど」の2つ目は、南阿蘇村など阿蘇山の外輪山付近で起きた斜面崩壊。阿蘇大橋の西側で起きた大規模な崩壊は、テレビで何度も見ましたね。橋そのものはおそらく地震に耐えたと考えられますが、河道に流れ込んだ大量の土砂が橋を押し流してしまい、死者も出ました。
 斜面の上側の風化した安山岩のところが、地震で揺すられて深層崩壊を起こしたというのが専門家の見立てで、その量は50万立方メートルにも達したとのことです。現場は、ちょうど熊本地震の地震断層が走った方向の延長線上にあり、後ろから押しだすような強い地震動が、大規模崩壊を誘発したことも、理由の一つに考えられるのではないかとのことでした。過去にもM7クラスの地震では、このような大規模崩壊が起きており、孤立地区を作ったり、川をせき止めたりしています。大地震の持つエネルギーのすごさを感じます。

 そして3つ目の「なるほど」だったのが、山の中の道路があちこちで寸断された被害。道路の舗装がひび割れて、通行不能になっている西原村付近の写真が痛々しい限りでしたが、これらの被害箇所を古い地図と重ね合わせてみると、谷筋に盛土をして通した部分が元の斜面の下の方向に流されていました。同じ道路でも、地山をそのまま使った箇所や、切土の部分の被害はほとんどなく、やはり谷筋の盛土の部分で被害がおきやすいというこれまでの知識が再確認されたとのことです。

 さて「なぜ、こんなことが」と専門家たちの頭を悩ませているのが、阿蘇の外輪山の内側(カルデラ内)の阿蘇市狩尾(かりお)地区などでみられた、これまでにない地盤災害です。写真をみると、あちらこちらで、数メートルの幅で地盤がストンと陥没しています。周囲との高低差が2メートル近くに達しているところもありました。
 こんな謎の現象が起きた理由は何か。いま様々な説が出されていますが、どれも決め手に欠けるとのことです。
 例えば、もともと地下に空洞があって地震の揺れで崩れ落ちたのではないかという説や、液状化で陥没したのではないかという説、活断層の動きが地表にまで達したという説などなど。しかし空洞説には「周囲に同じような空洞がない」ことや、液状化説には「液状化に特徴的な噴砂の痕がない」こと、活断層説には「この付近の揺れがさほど強くなかった」ことや「余震活動が活発でない」ことなど矛盾する点がそれぞれあります。
 野田さんたちは、外輪山の内側の比較的やわらかい地盤に入ってきた2種類の地震波(表面波と実体波)が、干渉しあってこのような被害をもたらしたのではないかという仮説を立て、いまコンピュータでシミュレーションを試みているということでした。
 早く真相を解明してもらいたいものです。こうした研究が将来の地盤災害の防止に役立つと期待されるからです。

 今回も「液状化が心配される愛知県西部を通る関西本線の盛土は大丈夫だろうか」などの質問が次々と出て、専門家との対話が盛り上がりました。
 名古屋大学の減災館にも、自分の住んでいる地域の古い地図を見ることができる展示もありますし、液状化のしくみをわかりやすく説明した展示もあります。南海トラフ巨大地震や直下型地震に向けて、われわれ住民としても、こうした知識をしっかり身につけて、地震の後に専門家が「なるほど、やはりこうなったか」というような被害を最小に抑える努力をしておきたいものです。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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