第61回げんさいカフェを開催しました

「高潮対策の検討はどこまで進んでいるか?」

ゲスト:海岸工学者 水谷 法美さん
(名古屋大学大学院工学研究科教授)

日時:2016年6月1日(水)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館 減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

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 本格的な台風シーズンを前に、今回のカフェでは、愛知県の高潮対策の検討がどこまで進んでいるかをテーマにしてみました。

 ゲストの水谷さんはまず、1959年(昭和34年)の伊勢湾台風(15号台風)についてお話ししてくださいました。
 この台風が、和歌山県に上陸した時の気圧は929hPa、最大風速は50mという猛烈な勢力でした。それに加え、そもそも台風の進路の右側では、台風の移動速度と風速が重なって被害が大きくなりやすいことが知られていますが、潮岬から紀伊半島を縦断して進んだこの伊勢湾台風のルートは、まさに伊勢湾で高潮が高くなるコースだったのです。この時の名古屋付近の高潮は3.5mに達したことがわかっています。犠牲者は5000人を超え、我が国に災害対策基本法が作られたのもこの災害がきっかけでした。

 水谷さんによると、実は、伊勢湾台風の6年前にも、高潮を発生させ大きな被害を出した台風があったのだそうです。1953年13号台風です。大規模な浸水被害が出て、500人近くが犠牲になりました。その後、防潮堤の建設など対策工事が進められているうちに伊勢湾台風が来てしまったそうです。コンクリートを張り付けたしっかりした防潮堤の整備がすすめられていた地域では、他の地域により被害が少なかったということで、これで防潮堤の効果が確かめられたという面もあったようです。そんな背景があったのかと、私も今回初めて知りました。

 いずれにしても、その後の愛知県、名古屋市の高潮対策は、「伊勢湾台風並みの高潮が来ても大きな被害が出ない」ということを目標に進められてきました。その意味で、対策はかなり進んできているのですが、最近では、温暖化による海水温の上昇などの影響もあって、もっとシビアな「スーパー伊勢湾台風」を想定した対策が必要なのではないかという指摘も出て、検討が始まっています。
 スーパー伊勢湾台風というのは、上陸時の勢力が過去最大だった1934年の室戸台風が伊勢湾台風と同じコースでやってきた場合、という想定なのだそうで、そんな台風がやってくると、すでにある防潮堤ではとても防ぎきれません。

 とすると、適切なタイミングでの避難が大切になります。
 台風の場合、進路予想で、いつ頃どの辺にやってきそうか、数日前からだいたいわかりますが、逆に徐々に近づいてくるので、どのタイミングで避難を決断するべきか、なかなか判断が難しいですよね。(その点、津波は地震発生というきっかけがあるので、避難するタイミングがわかりやすい)

 そこで水谷さんは、アメリカで導入されている対策を参考に、我が国でも検討が進められている「タイムライン」を設けることが大切だと指摘しました。。「タイムライン」というのはその名の通り、台風の上陸から逆算して、何時間前に誰が何をする、ということを300項目にわたって具体的に決めて一覧表にしておくことで、台風が近づくたびに毎回、国や県、市町村、交通機関、警察などはその「タイムライン」に決められたとおりに動くことになります。あらかじめこうやって決めておけば、その時々でいちいち難しい判断をしなくて済むので、対策が円滑にすすむというわけです。
 また港ごとにBCP(事業継続計画)を立てておけば、高潮被害によるダメージをできるだけ少なくし、高潮被害が起きた後の復旧が早くすることが期待できます。愛知県内でも、重要な港である名古屋港、三河港、衣浦港ではすでに港湾BCPが策定されているということです。

 会場の参加者の皆さんからも、避難のタイミングを考えるのにどんな情報を参考にしたらいいのかなどの質問が出て、今回も対話が盛り上がりました。水谷さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

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→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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