第55回げんさいカフェを開催しました

「鬼怒川水害の実態と教訓」

ゲスト:水資源学者 中村晋一郎さん
(名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻講師/減災連携研究センター兼任)

日時:2015年11月30日(月)18:00〜19:30
場所:名古屋大学減災館 減災ギャラリー
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦(名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。

nakamura-g01
今回のテーマは、今年9月に起きた関東・東北豪雨での鬼怒川水害。災害直後から現地調査に入った中村さんに、その実態と得られた教訓についてお話しいただきました。

中村さんはカフェの冒頭、「多くの皆さんは 『河川改修が進んでいるのでもう大きな川の氾濫や堤防決壊などは起きないだろう』と思っておられるかも知れませんが、治水の専門家の立場から見れば今回のような水害はいつ起きてもおかしくないと思っていました」とおっしゃいました。全国の河川改修はまだその途上であり、温暖化の影響などで予想を超える豪雨が今後もあり得るからだということです。

さて、中村さんたちの詳しい現地調査で、いろんなことがわかってきているそうです。一つは住民の意識の問題。堤防が決壊した場所から10キロほど下流の地域に住んでいる方の中には、決壊の様子を昼間テレビで見ていたのにその日の夜、水が自分の家付近にやってくるまで避難せず家にいた人というがかなりいたということです。地形や浸水ハザードマップを見れば、自分の街に水が来ることはわかるはずなのに(しかも自治体から避難勧告が出ているのに)自衛隊員が玄関の戸を叩くまで、避難という意識がなかった人もいたということでした。確かに日頃からの備えや知識がないと、誰かに促されるまで避難を決意するのは難しいのかもしれませんね。

もう一つは、古来からの知恵。過去に何度も水害に襲われてきたこの地域では、古くからの集落の家は皆、昔の自然堤防の上など微地形的に少し高くなっている場所に建っており、さらに周りの道より嵩上げして建てている家も多かったということです。そんなお宅は今回も被害を免れていたり浸水被害が少なかったそうで、昔の人の言い伝えが今に生きていることを実感したそうです。一方で、被害が大きかったのは以前田んぼだったところに開発された住宅地だったりして、広島水害などこれまでも再三言われてきた「自分の住んでいる場所の歴史や災害履歴を知っておくべき」ということが、やはり今回も言えそうです。

報道などでは堤防決壊場所付近の被害ばかりが目立ちましたが、中村さんたちの調査では、浸水の深さは、まわりの地形の影響などを受けてむしろ10キロほど下流の水海道市付近が最も深く、中には2メートルに達していた場所もあったということです。今回のような水害では広い範囲に長期間の浸水が起こりうるので、住民としては食料や水の備蓄なども大切だということがわかります。

最近のコンピュータ・シミュレーション技術の進歩で、今回の水害でも、堤防の決壊場所から「いつごろ」「どの辺りまで」浸水が広がるかということもかなり精密にシミュレーションできることがわかったということです。計算結果は実際に水が流れ下るよりも早く得られるので、下流の住民への避難呼びかけにも活用できそうですが、中村さんによれば「計算はできるけれども、どの機関が、どのタイミングで責任持って発表するかが決まっていないので、まだ活用されていない」とのこと。これは今後の課題といえそうです。

会場からは「川の近くに住む自分の妹も救助隊が来るまで避難しないと思うが、どうすればいいか」や「決壊しやすい場所は専門家ならあらかじめわかるのか」といった質問が出て、今回も対話が盛り上がりました。中村さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

nakamura-g02

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

This entry was posted in お知らせ, げんさいカフェ. Bookmark the permalink. Both comments and trackbacks are currently closed.