第47回げんさいカフェを開催しました

「兵庫県南部地震から20年:地震の長期評価に教訓は活かされているか?」

地震学者 鷺谷 威さん
名古屋大学減災連携研究センター教授

企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
   (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 20年前の阪神淡路大震災の前、神戸に住んでいる多くの人が「関西には大きな地震は来ない」と思い込んでいたといいます。歴史的にみればそんなことはとても言えないのですが、おそらくその思い込みは行政関係者や報道機関にもあって、そうした備えのなさが被害の拡大につながったとされています。

 考えてみれば私たち国民は、自分の住んでいるところが歴史的にどれほど地震に見舞われてきた場所か、さらにこれからどんな地震災害が科学的に予想されているのかあまり知らないまま生きていることが多いのが現実です。

 そこで国は、阪神淡路大震災の後、推本=地震調査研究推進本部を設置、全国地震動予測地図を作成して「今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」等を公表しています。

http://www.jishin.go.jp/main/chousa/14_yosokuchizu/h_6.pdf

 自分の住んでいる街の地震リスクを“わかりやすく”国民に伝えるために作られたこの地震動予測地図なのですが、今回のゲストの地震学者鷺谷威さんは、ほんとうにこの伝え方でいいのか?と疑問を呈しています。

 この地震動予測地図では、東日本大震災のような海溝型(プレート境界型)の巨大地震と、阪神淡路大震災のような内陸型(活断層型)の地震の発生確率と揺れを重ね合わせて計算しています。それが「30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」として地図に反映されているのです。

 そういうやり方だと、どうしても確率には100年から数百年に一度マグニチュード8以上の規模で襲って来る海溝型地震の寄与が大きくなり、その影響を受ける太平洋側地域(東海地方もその中に入ります)が高い確率になって、真っ赤な表示になってしまうわけです。

 特に南海トラフ巨大地震については、直近の昭和東南海地震・南海地震がそれ以前の安政地震や宝永地震に比べ少し規模が小さかったため、「小さめの地震の後は、次の地震はあまり長い間隔を置かずにやってくる」という“時間予測モデル”の考え方によって、発生確率が「70%程度」とかなり高めに設定されたと鷺谷さんは指摘します。

 発生確率を高く見積もることのどこが問題なのか?鷺谷さんは「この高い確率に目を奪われすぎること」の危険性を指摘しています。

 というのも鷺谷さんが明治時代以降20人以上の死者が出た地震を調べたところ、海溝型地震が9回なのに対し、内陸型の活断層地震が23回、その他(遠地地震など)が2回となっており、海溝型地震よりも活断層地震による被害が起きる方が、数から言うと2倍以上も多かったのです。活断層型地震は、その場所でくり返される間隔が数千年から1万年以上ととても長いため、30年以内の発生確率にすると極めて小さくなってしまいますが、国内には活断層の数(未知の活断層も含めて)がたいへん多いので、結局、国民が活断層地震に見舞われる可能性は高くなってしまっているのだと鷺谷さんは説明します。

 東日本大震災前の地震動予測地図で起きる確率が低いとされていた福島県付近でその後地震が立て続けに起きたことも記憶に新しいところです。鷺谷さんは「計算された地震発生確率の数値だけにとらわれてしまうと、結果的に、次に起きるのは東海地震と思い込んでいた阪神淡路大震災の前の神戸市民のような間違いを犯す可能性がある」と警告を発しています。

 今回もたくさんの市民が参加してくださいました。会場からは「過去の地震発生記録から確率計算するだけではなくて、地殻変動などの観測データをもとに日々更新される予測地図は作れないのか」という質問がでて、鷺谷さんが「今後の研究課題です」と答える場面も見られました。鷺谷さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。

日時:2015年4月10日(金)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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