第43回げんさいカフェを開催しました

シリーズ減災温故知新③「東南海地震から70年で、考えなければならないこと」

地震学者 山中 佳子さん
名古屋大学大学院環境学研究科地震火山研究センター准教授

企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦
  (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との
共催で実施しています。


 過去の地震被害を振り返ってこれからの減災を考える「減災温故知新シリーズ」3 回目は、70年前の1949年12月7日に起きた昭和東南海地震がテーマです。

 地震学者の山中さんは、この地震だけでなく、そのひとつ前の南海トラフ巨大地震である1854年の安政東海地震と安政南海地震、さらにその前にあたる1707年の宝永地震もあわせて考える必要がある、というお話をしてくださいました。

 昭和東南海地震を含む南海トラフ巨大地震は、過去100年から150年に一度のペースで繰り返し起きていますが、毎回起きるたびに、その連動の仕方や、揺れが強かった場所などもさまざまです。こうしたことから、最近の研究では、それぞれの地震の起こり方(震源モデル)がかなり違うのではないかと考えられるようになったということです。
 山中さんたち地震学者は、過去の南海トラフ巨大地震がどのように起きたのかをできるだけ詳しく知りたいといいます。 しかし地震計による観測ができるようになる前の過去の地震は、寺や神社の被害の記録や、個人の日記帳の表現など断片的な情報をもとにしており、 まだ十分にわかっていないことも多くあります。

 山中さんも高知県の各地を回って過去の地震や津波の被害の記録を調べたそうです。その一つが「神社明細帳」。明治初期に当時の内務省の指示で各神社の由緒、宝物などがまとめられたものです。高知県の場合、高知県立図書館には62冊の「神社明細帳」がありました。高知県中部の宇佐地区の「神社明細帳」によると、39の神社のうち34で、1707年の宝永地震で津波の被害があったと記録されているそうです。しかしより新しい1854年の安政南海地震の津波被害の記録は全くありませんでした。また高知県西部の太平洋側の神社でも宝永地震の記録が残っている神社はあっても安政地震の記録はないなど、高知県では、宝永地震より安政南海地震の津波の方がずっと低かったと推測されるということです。
 ところが和歌山県の「神社明細帳」を調べると、そちらには安政地震と宝永地震の両方が書かれていることが多く、どうやら宝永と安政の二つの地震の津波被害の様相は、場所によってかなり違っていることが改めてわかってきました。

 「安政は東海と南海と分かれて起きたが宝永は東海から南海までが連動した」というような単純な震源モデルでは説明ができないないと山中さんは考えているそうです。一方、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震の山中さんの解析では、過去起きた巨大地震で大きく滑ったところ(アスペリティ)が連動しながら再び滑ったことを示していたことから、山中さんは南海トラフでも同様に複数のアスペリティが組み合わせを変えて繰り返しすべりながら巨大地震を発生させているのではないかと考えているそうです。
 そういう意味では、70年前の昭和東南海地震と安政、宝永の地震を比較しながらそれぞれの震源モデルを考えなおす必要がある、これが「いま地震学者として考えなければならないこと」ということです。

 ではわれわれ市民が「昭和東南海地震から70年で考えなければならないこと」は何でしょうか。
 山中さんは、自分の地域の過去の地震・津波被害を知ること、とおっしゃいます。自分の地域は過去の地震でどういった被害に見舞われたのか、70年を機に考えてほしいということです。一つの良くない例として、山中さんは高知県黒潮町田野浦地区で安政南海地震の後、長く続いていた「大潮まつり」が、昭和のはじめに途絶えてしまったことを上げました。安政南海地震が起きた旧暦の11月5日に、村の人たちが神社に集まっておこもりをし、ご馳走を食べて津波の怖さを伝承する行事だったのに、それが途絶えた後に昭和の南海地震が起きてしまったということです。
 もちろん、その後の都市化、ビルの高層化や土地利用の変化で新たに考えなければならない被害もあります。自分たちの地域の過去を正しく知ること、それがこれから起きるとされている南海トラフ巨大地震などから身を守る手段を考える第一歩だということになります。

 山中さん、参加者のみなさん、今回もありがとうございました。

日時:2014年12月3日(水)18:00〜19:30
名古屋大学減災館 減災ギャラリー

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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