げんさいカフェ(第11回)

「歴史から学ぶこと―濃尾地震後における建築界の対応―」

平成24年4月16日(月)午後6時〜 西澤 泰彦先生

今回のゲストは、建築史がご専門の名古屋大学大学院環境学研究科(減災連携研究センター兼任)准教授の西澤泰彦さん。いまから120年前にこの地方を襲った濃尾地震の被害と、それがその後の社会と学界にどのような影響を与えたのかというお話でした。

愛知県警察部が地震の翌年に作成した「震災記録」や宮内庁が保管する当時の被害写真を基にした西澤さんの研究によると、濃尾地震の後、当時の最新技術である「レンガ造りの建物が壊れた」という情報が独り歩きしてしまった可能性があるということです。その後の愛知県庁の改築や名古屋市役所の改築で木造建築が選ばれたのは、当時のこの地方の社会の受け止め方として「レンガ造りの建物は地震に弱い」という誤った印象があったためではないかということです。

これに対して学界の対応は冷静でした。帝国大学の震災調査団は、レンガ造りの建物が地震に弱いというのではなく、材料の強度や施工の方法に問題があったのだと指摘しているそうです。そして、当時量的には圧倒的に多かった木造家屋を地震に強くするためにはどうすればいいかという研究が震災予防調査会、帝国大学、そして民間の建築家も交えて、官民あげて、盛んに行われたことが分かっています。

カフェの参加者からは、当時の新聞は濃尾地震の被害写真をどの程度報じていたのかや、ロンドンでは大火の後、都市の不燃化が実現したのになぜ日本では進まなかったのかなど、多くの質問も出され、対話が盛り上がりました。

震災の教訓を後世に伝えるにあたって「印象的な出来事」のイメージばかりが先行し、耐震性の向上が大切であることなど「地味だけれども重要な教訓」が忘れられがちであることは、メディアが発達した今でもあまり変わりがありません。将来の南海トラフ巨大地震に備えなければならないこの地方の私たちにとっても、とてもためになる前例だと思いました。

次回のカフェは5月14日(月)。場所は同じカフェフロンテです。この4月から減災連携研究センターの寄付研究部門の教授となられた地震学者の武村雅彦さんに、関東大震災のほんとうの姿についてお話しいただきます。

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