第34回げんさいカフェを開催しました

「小学校における心の減災教育」

臨床心理学者 松本 真理子 さん
名古屋大学発達心理精神科学教育研究センター教授

企画・ファシリテータ:隈本邦彦
  (名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」との共催で実施しています。


 今回のゲストは松本真理子さん。臨床心理学者として、これまで子どもたちの心の健康の問題を解決することを目指す研究をしてこられました。減災連携研究センターの兼任教員として減災にかかわるようになってからは、研究経験を生かして「さまざまな災害時に、子どもたちが自分自身で心を守り、回復に向かう力を備えておくにはどうしたらよいか」をテーマに、心の減災能力を持たせる方法の開発に取り組んでおられます。松本さんが、教員や大学院生らと作っている「こころの減災研究会」では、いま学校で先生たちが使える心理教育プログラムの「指導案」と「教材作り」を進めているそうです。

 松本さんは、まず北欧フィンランドと日本の小学4年生・中学2年生の心の状態を比較した研究結果を紹介しました。その結果、日本の中学2年生はフィンランドの中学2年生に比べ、自己効力感=自分は頑張れば何でもできる、という感じを持っている子どもが明らかに少ないのだそうです。そういう子どもたちにむやみに「災害は怖いぞ」「備えないと大変なことになるぞ」「災害時には人助けをしなさい」と教えても、いざというときに恐怖でパニックになったり「自分たちにはできない」とあきらめたりして、うまくいかないのではと松本さんたちは考えています。現役の学校の先生たちにアンケートをすると、多くの先生がこころの減災教育の必要性は感じているが、実際に行われているのはほんのわずかです。先生たちは、災害時・災害後に子どもの心の健康がどうなるのか不安を持っているのに、どう備えたらいいかわからないというのが現状のようです。

 一方いまの学校は、いじめ問題や学級崩壊など多くの問題に直面しており、先生たちはあまりに多忙。その上、防災・減災の教育に新たに時間が割かれるのは勘弁してほしいというのが先生たちの本音のようです。そこで、こころの減災研究会では、先生たちが使いやすく、かつ効果的なプログラムとして1学期に1回実施できる、子どもたちの心の健康促進と心の減災能力を身につけるプログラムを統合した教材を開発しているそうです。
 
 カフェの参加者の皆さんとともに、そのうちの1回目にあたる授業を体験してみました。まずはビデオで「地震が起こったと き」の知識を得て、その時にどんな状態になるのか想像し、それに備える方法を自分たちが考えてもらいます。そして、緊急時に心を落ち着かせる方法として、1、2、3で息をゆっくり吸い、4で止めて、5、6、7、8、9、10で吐く“10秒呼吸法”を実践します。こうしていざという時に自分を落ち着かせる方法を一つ知っているだけで、子どもたちは「災害時でも自分は何か行動ができる」という気持ちを持つことができるそうです。松本さんたちのアンケート調査でも、その効果が長期的に(3か月間)持続すること が確かめられています。こころの減災プログラムでは、この後2回目で緊急時の自分の状況を客観的にみることができる認知改善の授業と、3回目で子どもの心の健康にかかわる対人関係などを改善する授業が行われることになっているそうです。

 今回も会場からたくさんの質問が出て、対話が盛り上がりました。松本さん、ありがとうございました。

 カフェフロンテで開くげんさいカフェは、今回が最後。次回からは減災連携研究センターの新しい建物“減災館”の1階、げんさいギャラリーで行います。みなさんお誘いあわせの上ぜひまたご参加ください。

日時:2014年3月12日(水)18:00〜19:30
名古屋大学カフェフロンテ(環境総合館斜め前、本屋フロンテの2階。ダイニングフォレスト向かい)

→ポスター(PDF)
※過去のげんさいカフェの様子はこちら

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