第133回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

防災まちづくりと都市火災 (減災館第33回特別企画展「まちづくりと都市火災」との連携企画)

ゲスト:都市工学者 廣井 悠 さん
   (東京大学大学院工学系研究科教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)
日時:2022年12月6日(火)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 げんさいカフェは、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」との共催で実施しています。

 今回は減災館で行われている特別展示「まちづくりと都市火災」との連携企画。地震火災に詳しい都市工学の専門家、廣井悠さんにゲストに来ていただきました。
 地震火災といえば、2023年がちょうど100年にあたる関東大震災が思い浮かびます。10万5000人の犠牲者のうち9割近い9万2000人が火災による死者といわれています。
 廣井さんから、関東大震災当時に比べていまの都市は、地震火災に強くなっているかという視点でまずお話をいただきました。

 約100年前に比べれば、いまの都市は安全になっているだろうと思っていたのですが、専門家である廣井さんから見ると「少しは安全になってはいるが、そこまで大丈夫とはいい難い」という評価なのだそうです。
 いまの都市を「出火」「延焼」「消防」「避難」の4つの観点から評価してみたところ、まず「出火」については「当時よりそこそこ悪くなっているのでは」と考えられるそうです。
 都市の不燃化が進み、当時のようにかまどや七輪を使っている家はほとんどないため、世帯当たりの出火率は減るとみられます。しかし一方で都市部への人口集中が進んでいるため、出火の件数自体は、発災の季節や時間帯によってはむしろ増えるかもしれないということです。
 続いて2点目の「延焼」の観点では、いまの都市は良くなっています。簡便な延焼速度の試算をしてみると、風速6m/sくらいのもとでは、当時に比べて延焼速度、燃え広がる速さは3分の2から半分に下がっています。しかし同時多発火災が起き、消火活動が追い付かなければ、いくら延焼速度が遅くても、結局は燃えてしまう可能性も高くなるので、その点は注意が必要です。
 3点目の「消防」の観点、これについては目覚ましく進歩しています。ただ、同時多発火災の場合には、通常の消防力の限界を超える可能性が高いため限定的であり、特に風が強ければ被害が大きくなる可能性があります。
 そして廣井さんは4点目の「避難」について少し心配しているそうです。
 避難路や避難場所の整備が進み、計画上は「避難」はより安全になっているはずです。しかし都市部への人口集中が進んでいることが避難を難しくしている可能性がある上、もしかしたら現代の人は逃げるのが下手になっているかもしれないと廣井さんは指摘します。
 当たり前のことですが、大規模地震の火災から避難した経験のある人はほとんどいないし、そういうことをみんなで考えておくことも少ないですね。
 廣井さんは、関東大震災の火災を生き延びた方にインタビューしたことがあるそうですが、そのおばあさんは、火事が起きたらこうやってここに逃げると家族で話し合っていたそうです。当時の人は“大火から逃げる”ということが、いまより一般的で、身近だったのかもしれません。

 地震による都市火災は、平常時の都市火災とは大きく違う点がいくつかあります。
 その一つが「逃げまどい」が起きる危険性があるということです。「逃げまどい」とは、地震で避難路が閉塞していたり、別の火災に行く手を阻まれたりして、逃げ道を失ってしまうことです。めったに起きない現象ですが、いったんおきてしまうと多数の犠牲者が出てしまうおそれがあります。
 考えてみれば、人間って地上の高さから見える範囲しか見えません。空から見たら避難路の途中に別の火災があるかもしれないけど、それは地上の人間にはわかりませんね。
 そして地震火災では「逃げる決断をするタイミングが難しい」という問題もあります。
 大雨の時のように行政からの避難指示が出ない可能性が高いですね。消防にとってもどこにどのような火災が起きているのか把握できないのですから。
 どれくらい火災が近づいて来たら逃げるか、素人には難しい判断が迫られます。当日の風の強さにもよります。
 自分のいる場所から500メートルまで火が近づいてきたら逃げるべきという研究者もいますが、それでは遅いのではないかと廣井さんは考えていて、確定的なことはわかりません。
 例えば地震の時には、目の前に閉じ込められている人がいたり、初期消火をしないといけない場合もあったりするので、すぐに避難できないこともあります。でもそれに気を取られていると逃げるタイミングを失うかもしれないというわけです。
 逃げるか、助けるか、火を消すか、その判断が難しいんですね。
 今回のカフェでは、火災時の避難行動について参考になるお話を聞きました。
 2016年12月に新潟県糸魚川市で大規模火災がありました。この時の避難行動を調べた廣井さんたちの調査では、本来逃げるべき人のうち4割が、逃げないで火事の様子を見ていたということです。確かに、この火事がどうなるのか、自分の家が焼けるかどうかという時に、避難しないで見てしまうというのは人間の性なのかもしれません。この時には同時多発火災ではなかったので犠牲者が出ませんでしたが、地震火災ではそうはいかないかもしれません。“見ているくらいなら逃げてほしい”と、廣井さんはおっしゃっていました。
 今回も142人の方に、会場とオンラインで参加いただきました。
 廣井さん、参加者の皆さんありがとうございました。

  

 

→ポスター(PDF)

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