第127回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

建築耐震の実験研究最前線

ゲスト:耐震工学者 長江 拓也 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター准教授)
日時:2022年6月13日(月)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ギャラリー・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 今回ご紹介する長江さんの最新耐震研究は、長江さんが以前所属していた防災科学技術研究所のEディフェンス=実大三次元震動破壊実験施設を使ったものです。実物大の建物を振動させて破壊するまで調べるというこの巨大な実験施設。鉄筋コンクリート10階建てのビルが壊れるまで揺らすこともできるという、世界最大の振動台を持つ研究施設です。
 なぜ壊れるまで揺らすのですか?と長江さんにお聞きしたのですが、建物の耐震性の研究では、例えば10の力で揺らして大丈夫であることを確かめたという実験だけでは、では15の力で揺らした時はどうなのか?20の力で揺らした時はどうなのか?という疑問に答えることはできないということでした。やはり実際に、どれほどの揺れで壊れてしまうのかというのは、壊れるところまで揺らしてみる実験でしか確かめられないということになります。その建物が壊れる寸前のデータが大切なのですね。

 Eディフェンスを使った長江さんの最新の実験は、地盤の上に建った家を揺らしてみるというものでした。
 これまで数多く行われてきた実験は、振動台の上に直接家を固定して揺らしてみるというものでした。しかし今回は、振動台の上に大量の土を載せて、地盤を作り、その上に、普通に家を建てる時のようにコンクリートの基礎を打って木造住宅を建て、それを揺らしてみるという実験を行ったのだそうです。
 家だけを揺らす実験であれば、実物大の木造住宅でもだいたい50トンくらいのものだそうです。しかし地盤を作って、その上に基礎を打って、家を建てるとその10倍の500トンくらいのものを揺らす実験になってしまいます。しかしそれができるのがEディフェンスです。この施設ならではという実験だったわけです。

 この実験の大きな意義は、より現実に近い状態で建物の耐震性を評価することができるということだそうです。
 確かに現実社会では、地震の揺れは直接建物に伝わるのではなく、地盤をゆらし、それがコンクリートの基礎を揺らし、さらにそれが建物に伝わっていくわけです。それをできるだけ忠実に再現した実験ということになりますね。
 そして今回の実験の結果、揺れている最中に、コンクリートの基礎が地盤から少しずれることによって、建物に伝わっていく揺れが少し弱まっているというデータが得られたそうです。
 実は、これは予想された結果でした。
 この実験のヒントは、2016年の熊本地震の時にあったそうのだです。
 結構強い揺れに見舞われた地域で、長江さんが住宅の被害を詳しく調査した結果、基礎がずれて水道管とかガス管などが壊れてしまっている住宅で、比較的建物の被害が少なかったものがあったそうです。
 長江さんは、おそらく揺れている最中に基礎がずれることで、地震の揺れを相殺するような動き=ちょうど免振構造の建物を揺らした時のような動きがあったのではないか推論しています。それを今回の実験で確かめたということなのですね。

 今回の実験では、今の耐震基準の1.5倍くらいまで強くした木造3階建ての住宅が、震度7相当の揺れでも大丈夫だったということがわかりました。
 もちろんまだ今後も条件を変えてさらに研究が必要かもしれませんが、この研究結果の持つ意味は大きいと思います。
 というのも、耐震基準というのは、あくまで最低基準で、家は若干壊れても倒壊、大破することはないという基準です。中の人が生き残るという基準なんですね。
 ですから「家を建てるならその最低レベルでいいじゃないか、お金をかけてそれより強くしても、結局震度7相当の揺れが来れば壊れるわけだから」という意見も確かにあり得るわけです。
 しかし長江さんたちの研究の積み重ねによって「耐震基準の1点5倍くらいまで強くしておけば建物はほとんど壊れない」ということが確認できれば、そういう高いレベルの耐震性を自分の家にも導入しようという人が増えるんじゃないかと、長江さんはおっしゃってました。
 そういう考え方の基礎になる実験研究がいま地道に行われているということを知ることができました。
 今回も160人近くの方が会場とオンラインで参加してくださいました。長江先生、参加者の皆さん、ありがとうございました。

 

 


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