第126回げんさいカフェ(ハイブリッド)を開催しました

点のBCPから面のBCPへ〜「病院」を手がかりに考えてみる

ゲスト:BCPの先駆者 西川 智 さん
   (名古屋大学減災連携研究センター教授)
日時:2022年 5月16日(月)18:00~19:30 
場所:名古屋大学減災館1階減災ホール・オンライン
企画・ファシリテータ: 隈本 邦彦 さん
(江戸川大学教授/名古屋大学減災連携研究センター客員教授)

 BCPというのは、Business Continuity Planningの頭文字をとったもので日本語では事業継続計画と訳されます。災害のダメージを最小限に抑えて、企業や組織の事業を災害後も継続できるよう事前に定めておく計画のことです。
 このBCPの考え方を日本で最初に提唱したのが、昔国土庁防災局、その後内閣府の防災担当で、いま名古屋大学におられる西川さんです。今回はその西川さんにゲストの来ていただき、BCPを「点から面に広げていこう」という話をお聞きました。

 日本でも大企業を中心にBCPが少しずつ普及してきており、地震でこの拠点がだめになったら、別の拠点でバックアップするなどの計画を策定している企業も増えています。
 ただそれはあくまで「点のBCP」。本社の工場だけが事業継続できたとしても、そこに部品を持っていく輸送経路や、部品を製造する工場、さらにそこに原料を持っていく輸送経路までがちゃんと機能していなければ、メインの本社工場が動かないということもあり得ます。つまり「点のBCP」ではなく、ひとつながりになった「線のBCP」が重要なのです。実際に11年前の東日本大震災でも、部品のサプライチェーンが止まってしまったために自動車工場が創業できなくなるという出来事もありました。

 西川さんによると、この「線のBCP」。なかなか実現は大変なんだけども、日本では、いわゆる系列の親会社が号令をかければ、実現しやすいという側面があるということです。
 BCPというのは、ある意味シビアな「経営判断」を伴うもので、事業継続のために会社のこの機能を残すから他の部署は休んで忙しいところを手伝いなさい、と命令するような場面もあり得ます。西川さんが「とにかく経営トップが『こうする』と決断しないと実効性のあるBCPはできない」とおっしゃるのも、それが理由です。
 その意味で、いい悪いは別にして、日本では親会社が号令をかけると下請け・孫請けの会社は従わざるを得ないというところがありますから、確かに日本型のシステムでは「線のBCP」が実現しやすいと言えるかもしれません。

 

 ところが「線のBCP」のもう一つ上のレベル=地域全体が災害後も機能するという「面のBCP」を達成しようとすると、なかなか難しい課題がたくさんあります。
 地域社会には、トップとして、みんなに命令ができる存在がいないことがその理由の一つです。確かに市長や町内会長さんがお願いしても、みんながその通りに動いてくれるとは限りませんよね。
 しかし地域全体でBCPを策定して災害後も町の機能を維持することの必要性は誰もが認めるところ、その一つの試みが、今回、西川さんたちが始めた「病院」を例にして面のBCPを考える研究だということです。
 病院を題材にしたきっかけは、2018年の西日本豪雨の際、岡山県倉敷市真備町の病院の機能が、一番大切な時に失われたという経験でした。この病院には、豪雨のさなかに近くのアルミ工場の爆発があり、多数のけが人が運びこまれていました。しかし堤防の決壊で溢れた水が病院内に侵入して自家発電機が止まり、一番必要とされている時に病院の機能がほぼ停止してしまったということです。

 西川さんによると、現代の病院は、このように電気が止まるだけで機能が停止してしまうだけでなく、他にも災害に対する“脆弱さ”が存在するのだそうです。
 それは、病院の機能が日頃たくさんの専門職によって支えられているということです。病院には、医師、看護師だけでなく、薬剤師、検査技師、放射線技師、理学療法士など、多くの専門職がいつも働いています。その人たちを災害後にもちゃんと確保できるということが病院の機能維持の必須条件となるのです。
 今回の新型コロナ騒ぎで、当初、保育園が感染を怖がって医療関係者の子どもを預かってもらえなかったという話がありました。その時には多くの看護師さんが出勤できなくなりました。
 つまり災害後も保育園をはじめとする地域社会がしっかり機能していてくれないと、病院で働くスタッフが仕事に行けなくなり、結果的に病院の機能が保てないというようなことが起こり得るわけです。

 また病院のBCPのもう一つの課題として、西川さんがあげたのが、薬や医療機器、医療資材などの供給の確保です。これも新型コロナ騒ぎの時に、一時期、手袋やガウン、消毒薬などが不足するというようなことがありましたが、そういう視点で改めて考えてみると、病院というのは、普段、たくさんのモノを毎日納入してもらって機能している存在だということになります。ところが病院のトップである院長は、いろんなモノがどのようなルートで納入されているか、それぞれの業者の在庫はどこにどれくらいあるのかなどはおそらく知りません。平常時ならそんなことは知らなくても、担当者が頑張ってくれているからです。しかし大災害後に病院の機能を維持していくためには、いざという時に最低限の薬、医療機器、医療資材などを確保することが極めて重要で、これも事前にBCPでしっかり決めておかなければならないのです。

 西川さんたちの研究は、これからアメリカの研究者とも共同で始まります。
 アメリカではここ数年、大きなハリケーンや竜巻があり、それを乗り越えてきた経験があるということで、そうした経験からも学んで、どのような病院のBCPのモデルができるのか、その成果を期待したいと思います。
 今回も会場とオンラインで154人の方に参加いただきました。参加者の皆さん、西川さん、ありがとうございました。

  


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